怪しい依頼

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 「こちらピンギー、潜入(スニーク)ポイントに到着」  一羽のペンギンが、耳に手を当て呟く。  『はは、なんだよそれ』  ゲーム(なにか)の見すぎじゃないか?という、無線越しに相棒の小馬鹿にするような笑い声が聞こえる。  「たまにはいいじゃないか」  雰囲気を出したつもりだったが、軽くあしらわれた。ちょっとむっとして、拗ねたように言うと、  『悪かったよ』  と笑いながら謝る。  2人の仕事は潜入調査が主な為、素性がバレるのは御法度だ。だからコードネームで呼び合っている。本当の姿を誰かに見せることもないし、見せては行けない。  とはいえ、いつでも、何にでも姿を変えられるわけではないため、任務以外の時だけ特定の生き物に姿を変えている。  『しかし、いつも思うけど、ペンギンだからピンギー、って安直すぎないかい?』  万が一のために、その都度コードネームは変えている。大きな敵の場合、情報が回っている場合もある為、同じコードネームでは正体がバレてしまうからだ。  「そこにひねりは必要ないだろう」  しかしピンギーは、バレなければよいだろう、とコードネームは大きく変えたりはしなかった。変えるとすれば、ペンギンを別の言語での言い方に変える程度だった。ペンギンの姿を誰かに見られる訳では無いから問題ないだろう、といいか判断だった。  『君はそういう人だったね。分かった、今回もピンギーでいこう』  本名は知らない。そもそも、お互いにお互いのことはよく知らない。  不可抗力で知ってしまったことも、それ以上詳しいことを聞くことはない。  だがそういう距離感だからこそ、やっていられるのかもしれない。  相手のことを知ることは情にも繋がる。  それは2人の仕事上では、かえって邪魔になるだけだった。
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