第2話

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「信じてくれるの……?」  自分でも瞳が揺れているのが分かる。  こんな非現実的な話、いくら理人でも取り合ってくれないと思った。 「当たり前でしょ。信じるよ、菜乃の言うことならすべて」  理人は優しく私の手を取った。  心から慈しむような眼差しと微笑みを向けられ、ついたじろいでしまう。  本当に童話の中の王子様みたいだ。  でも、私は彼に釣り合うお姫様なんかじゃない。  ────そう分かっているからこそ、いつからか理人の隣が少し窮屈になった。  それでも、私には理人しかいない。  私の話を聞いてくれるのも、私をひとりぼっちにしないでくれるのも、私を大事にしてくれるのも、理人だけなのだ。 「……ありがとう」  だけど、ちゃんと分かっている。  私の理人に対する気持ちは、彼に向ける“好き”は、決して恋心ではない。  兄のように慕っている、と言った方が正確だ。  幼い頃からずっとそう────気が弱く大人しい私を、理人はそばで見守ってくれていた。  私にとって彼が指標のような存在である一方、彼にとっての私は足枷でしかないかもしれない。  ちゃんとしなきゃ、と思いながらも、理人の優しさにはとことん甘えてしまう……。  不意に彼が、ぎゅ、と手に力を込めた。 「だから、菜乃も僕を信じて。僕の言うことを聞いてれば大丈夫だから」 「理人……」 「あいつのことなんて考えなくていい。どうせ何も出来やしないんだから……」  何だか様子がおかしい。  微笑んでいるのに、氷のように冷たい表情だった。  ぎゅうう、と嘘みたいに強い力で手を握り締められる。 「い、痛いよ……。どうしたの、理人」  初めて見る彼の様子に、戸惑いを隠せない。  怖い。  痛い。  こんな理人、知らない。 「……あ、ごめん」  はたと我に返った理人が、慌てて私を離した。  手の甲を見れば、赤い痕が残っている。  それに気付いた彼は慌てたように言う。 「本当にごめん、菜乃。傷つけるつもりはなくて」 「だ、大丈夫。ちょっとびっくりしたけど……」  心臓が早鐘を打っていた。  動揺を抑えられない。  理人に対して“怖い”なんて感情を抱いたのは初めてだ。  彼自身も戸惑っているようだった。  何かに焦っていたようにも見えた。  そんな様子を見ていると、先ほどの姿は気のせいだったのではないかとすら思えてくる。  理人は私を心配してくれただけ。それが少し高じただけ……。 (……だよね?)
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