第2話

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「でも、菜乃。彼のことは本当に無視してればいいから」  一拍置いて理人が言う。 「だから、もう気にするのはやめよう。彼の話はこれでおしまい」  いつもと同じ優しい表情。優しい声色。  それなのに、もう二度と向坂くんの名を出すな、というような圧を感じる。  先ほど垣間見えた冷たい一面から、理人に対する違和感のようなものが急速に膨らんでいく。  ────でも、何も聞けない。何も言えない。  また先ほどのようになったら、と思うと何だか怖い。  違和感も恐怖も、気のせいだと思いたかった。  しかし、植え付けられた強烈な印象がそうさせてくれない。 「……分かった」  小さく笑んで頷いた。  上手く笑えてたかな……?  理人は満足そうに微笑み、私の頭を撫でる。  なぜか、いつもの温もりを感じることは出来なかった。 「…………」  カーテンを見つめ、部屋の真ん中で立ち尽くす。  窓から覗いて、また向坂くんがいたらどうしよう。  想像しただけで、背筋がぞくりとする。  素早く脈打つ鼓動を感じながら、私は緊張気味に窓辺へ歩み寄る。  恐る恐る窓の外を見下ろした。 「!」  ……いた。  向坂くんが、昨日と同じところに。 「……っ」  目が合いそうになって、私は慌ててカーテンを閉めた。  呼吸が、指先が、震える。 (なんで……。何で? 何で?)  何でいるの?  何で執着するの?  向坂くんの目的は何……?  心臓が重たい拍動を繰り返す。手足の先がどんどん冷えていく。  息が苦しくなった。  まるで、首を絞められているみたいに────。 「理人……」  思わずスマホを手に取って、はたと思い出す。 『だから、もう気にするのはやめよう。彼の話はこれでおしまい』  彼には拒絶されたのだ。  理人にはもう、向坂くんの話をすることは出来ない。  そのことでは頼れない。 「どうしよう……」  どうしたらいいんだろう。  誰か、助けて……。  底の見えない恐怖で不安定になった心が揺れる。  真っ青な顔で泣きそうな自分が、スマホの液晶に反射していた。  私は部屋の電気を消し、ベッドに潜った。  布団を頭から被り、震えながら目を閉じる。 (お願い、もう……。早くどこかへ行って)  近くに潜む向坂くんの気配に怯えながら眠りについた。
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