第3話

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 どさ、と捨てるように鞄が置かれた。  私は布団に(くる)まったまま、思わず身体を起こす。  明らかにいつもの理人と様子が違う。  やっぱり、怒った……? 「理人……」  不安になり、その名を呼んだ。  理人はベッドの傍らに腰を下ろし、私を見上げる。  普段は私が見上げる側なため、この視点は新鮮なものだった。  彼は何も言わず、にこっと微笑む。 (あ……)  昨日の帰り道と同じ、温度のない表情だ。 「……失敗しちゃったみたい」  言葉の意味が分からず、黙ってその双眸を見返す。 「菜乃はあいつの話しかしないし、あいつのことばっかり考えてるし」  “あいつ”が向坂くんを指しているのだということは辛うじて分かる。  理人はそれを責めているのだろうか。  けれど、それは理人を信じてのことだった。  私を覆う不安や恐怖を、彼なら何とかしてくれる、と勝手に期待してしまったのだ。 「それは────」 「恐怖を与え過ぎても、僕を見てくれなくなるんだね」  理人は私の返事など最初から待っていないようだった。  私はただただ戸惑った。  まったくもって理人の話についていけない。 「“彼”に見られたのは誤算だったけど、利用出来ると思ったのに。……菜乃が僕だけを頼ってくれる、って」 「何、言ってるの……?」 「あはは、ごめん。確かに菜乃は頼ってくれたけど、僕が先に我慢出来なくなっちゃったんだ。僕、自分が思ってたより嫉妬深いみたい」  ────怖い。  まるで話が噛み合わないことも、理人の冷淡な笑顔も。  目の前にいるのは、本当に理人なの……?
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