第3話

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「どういうことなの……?」  困惑に明け暮れる。  それまで微笑んでいた理人が、不意に表情を消す。 「こういうことだよ」  伸びてきた彼の両手が私の首を掴んだ。  逃げる間も抵抗する間もなく、きつく締め上げられる。 「な……に、やめ……っ」  思うように声が出ない。息を吸えない。  昨日の比ではないほどの力で思い切り圧迫される。 「苦しいよね。でも大丈夫、すぐに終わるから」  彼の手を掴んでも、まったく敵わないほど力の差は歴然だった。  これでは抵抗にもならない。 「り、ひと……」  声は潰れたように掠れ、苦しみに呻き喘ぐことしか出来ない。  涙が滲んだ。  ぼやけた視界で、私を見下ろす理人の顔が見える。  何の躊躇も罪悪感もないような、晴れやかな笑みを湛えていた。 (ああ……)  ────やっと、思い出した。  目の前の光景と夢の記憶が混ざり合う。  夢の中でこうして私の首を絞めていたのは、向坂くんではなく、理人だった。 「……っ」  ぜんぶ、思い出した。  私は理人に殺されたんだ。  あれは夢じゃない。現実に起きたこと────私はあのとき、必死で願った。  “もう一度、やり直したい”。  今度こそ、彼に殺されないように。  ……どうして、今の今まで忘れていたんだろう。  本当に時が戻り、やり直す機会を得られたのに、これでは結局また同じことの繰り返しだ。 (馬鹿だ、私……)  向坂くんはずっと警告してくれていたのに。  理人が危険だと、教えてくれていたのに。  理人の脅威から守ろうとしてくれていたのに。 『俺は諦めねぇからな。花宮がどう思おうと』  その言葉の意味も、今なら分かる。  それなのに、私が何もかも忘れてしまったせいで────。 「菜乃」  つ、と涙が伝い落ちていく。  霞んだ視界が黒く染まっていく。 「次はもっと、うまくやるから」  水の中に沈んでいるように、理人の声が遠くに聞こえた。  彼の恍惚とした微笑が歪む。  それを最後に、私の意識は途切れた。
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