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(でも、何か凄くリアルだった)
息が出来ずに、だんだんと意識が遠のいていく感覚。死に晒される恐怖。
まるで実際に味わったかのような苦痛だった。
出来ればもう、あんな夢は見たくない。
昼休みになると、廊下や教室が一気に騒がしくなる。
鞄から取り出した弁当を机の上に置いたとき、バン、と誰かの手が天板を叩いた。
思わずびくりと肩を跳ねさせながら見上げると、そこには向坂くんがいた。
「向坂くん……?」
「なぁ、ちょっと話あんだけど」
彼は無愛想に言うと、答えを待たずして私の手首を掴んだ。
「え? ちょっと」
戸惑う私に構わず、強引に引っ張られる。
半ばつんのめりそうになりながら精一杯彼の後をついていく。
渡り廊下へ出ると、ようやく足を止めてくれた。
私を離し、向坂くんが振り返る。
「お前、どういうつもりだよ」
「何、が?」
「三澄のこと」
理人のこと……?
首を傾げてしまう。
話すほどに、向坂くんの言いたいことが分からなくなっていく。
「理人がどうしたの?」
「は? なに寝ぼけてんだよ。お前が言ったんだろ、“助けて”って」
思わず訝しむように眉を寄せる。
「私が? ……向坂くんに?」
「ああ」
そんなはずはない。
彼とは今日が、今朝が初対面なのだから。
そもそも、理人のことで何の助けを求めるというのだろう。
「私……向坂くんと話したの、今が初めてだよ」
「なに言って────」
今度は彼の方が戸惑いを顕にした。
はたと動きを止め、険しい顔で私を見据える。
「……待て。今日、何日だ?」
質問の意図が分からなかったが、私はスマホのロック画面で日付を確かめた。
「4月28日……」
それが何だと言うのだろう。
困惑していると、向坂くんがはっと瞠目する。
「ってことは、やっぱお前────」
「菜乃!」
名を呼ばれ、振り返る。
渡り廊下の先に理人が立っていた。
彼は向坂くんを認めると、警戒するような表情でこちらへ歩み寄ってくる。
「……向坂くん。菜乃にちょっかい出すのやめてくれないかな」
理人は私の手を引き、背に隠すようにして立った。
「は? 俺は別に……」
「まだ話に続きがあるなら今していいよ」
向坂くんは口を噤み、私と理人を見比べた。
しばらくそうした後、もどかしそうに目を伏せる。
理人はいつもの微笑を浮かべると、私に向き直った。
「行こう、菜乃」
「え……、あ」
優しく手を引かれ、私も歩を進めざるを得なかった。
結局、向坂くんの話は分からないまま────。
「……花宮。気を付けろよ」
そう静かに告げる向坂くん。
振り向くと、既に彼も背を向けていた。
気を付けろ、って何に?
向坂くんは何を言おうとしているの?
戸惑いだけが膨らんでいく。妙な胸騒ぎが植え付けられる。
「菜乃、気にしないで。聞く耳持っちゃ駄目だ」
理人が手に力を込めた。
色々と気にかかったものの、私は黙って歩く他なかった。
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