第1話

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(でも、何か凄くリアルだった)  息が出来ずに、だんだんと意識が遠のいていく感覚。死に晒される恐怖。  まるで実際に味わったかのような苦痛だった。  出来ればもう、あんな夢は見たくない。  昼休みになると、廊下や教室が一気に騒がしくなる。  鞄から取り出した弁当を机の上に置いたとき、バン、と誰かの手が天板を叩いた。  思わずびくりと肩を跳ねさせながら見上げると、そこには向坂くんがいた。 「向坂くん……?」 「なぁ、ちょっと話あんだけど」  彼は無愛想に言うと、答えを待たずして私の手首を掴んだ。 「え? ちょっと」  戸惑う私に構わず、強引に引っ張られる。  半ばつんのめりそうになりながら精一杯彼の後をついていく。  渡り廊下へ出ると、ようやく足を止めてくれた。  私を離し、向坂くんが振り返る。 「お前、どういうつもりだよ」 「何、が?」 「三澄(みすみ)のこと」  理人のこと……?  首を傾げてしまう。  話すほどに、向坂くんの言いたいことが分からなくなっていく。 「理人がどうしたの?」 「は? なに寝ぼけてんだよ。お前が言ったんだろ、“助けて”って」  思わず訝しむように眉を寄せる。 「私が? ……向坂くんに?」 「ああ」  そんなはずはない。  彼とは今日が、今朝が初対面なのだから。  そもそも、理人のことで何の助けを求めるというのだろう。 「私……向坂くんと話したの、今が初めてだよ」 「なに言って────」  今度は彼の方が戸惑いを顕にした。  はたと動きを止め、険しい顔で私を見据える。 「……待て。今日、何日だ?」  質問の意図が分からなかったが、私はスマホのロック画面で日付を確かめた。 「4月28日……」  それが何だと言うのだろう。  困惑していると、向坂くんがはっと瞠目する。 「ってことは、やっぱお前────」 「菜乃!」  名を呼ばれ、振り返る。  渡り廊下の先に理人が立っていた。  彼は向坂くんを認めると、警戒するような表情でこちらへ歩み寄ってくる。 「……向坂くん。菜乃にちょっかい出すのやめてくれないかな」  理人は私の手を引き、背に隠すようにして立った。 「は? 俺は別に……」 「まだ話に続きがあるなら今していいよ」  向坂くんは口を噤み、私と理人を見比べた。  しばらくそうした後、もどかしそうに目を伏せる。  理人はいつもの微笑を浮かべると、私に向き直った。 「行こう、菜乃」 「え……、あ」  優しく手を引かれ、私も歩を進めざるを得なかった。  結局、向坂くんの話は分からないまま────。 「……花宮。気を付けろよ」  そう静かに告げる向坂くん。  振り向くと、既に彼も背を向けていた。  気を付けろ、って何に?  向坂くんは何を言おうとしているの?  戸惑いだけが膨らんでいく。妙な胸騒ぎが植え付けられる。 「菜乃、気にしないで。聞く耳持っちゃ駄目だ」  理人が手に力を込めた。  色々と気にかかったものの、私は黙って歩く他なかった。
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