第1話

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 放課後、昇降口で靴を履き替えていると、どこからか視線を感じた。 「あ……」  その姿を認めたとき、思わず声がこぼれる。  向坂くんだ。  何か言いたげな表情で、強い視線を向けられる。 「また、あいつ」  気が付いた理人は眉を顰めた。  私も正直、不審でたまらない。  彼の言葉も態度も、何を目的としているのかまったく分からないのだ。  なぜ私に関わってくるのか、まるで分からない。 (怖い……)  得体の知れない恐ろしさのようなものを感じ、萎縮してしまう。 「大丈夫だよ、菜乃。何かあったら僕が守る。あいつのことは無視してればいいよ」  ぽんぽん、と理人が頭を撫でる。  幼い頃から変わらないこの温もりは、私にあたたかい安心感をくれる。 「ありがとう」  理人と歩くいつもの帰り道、何となく気になって後ろを何度も振り返ってしまった。  さすがに向坂くんがいるようなことはなかったが、不穏な胸騒ぎが収まらない。  漠然とした不安感が蔓延る。  向坂くんへの不信感や今朝見た夢がそうさせているのだろうか。 「……の、菜乃」  顔の前で手を振られ、はっとした。 「ぼーっとしてどうしたの?」 「ごめん、何でもない」  苦笑して首を横に振る。  いつの間にか家の前にいた。  理人との会話も上の空になるほど、私は何を気にしてるんだろう。  いつもみたいに理人の言う通りにすればいいのに、今は向坂くんのことを、彼のようには流せない。 「寝不足ならしっかり休みなよ。じゃあ、また明日」  優しい笑顔を向けてくれる理人に頷き「また」と手を振る。 「あ、それとも何か不安とか悩みがあるならいつでも言って。電話でもメッセージでも」  そう付け足し、じゃあ、と歩き去っていく。  理人は優しい。  いつでも、どんなときでも、私を優先してくれる。  夕食とお風呂を済ませ、自室へ戻る。  カーテンを閉めようと窓へ寄ったとき、不意に外で何かが動いた。  家の前の道路に立つ電柱、その外灯が人影を浮かび上がらせている。  ぞく、と背筋が冷えた。  と目が合う────。 (向坂くん……!?)
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