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どく、と跳ねた心臓が早鐘を打つ。
ざらざらとした砂粒が皮膚を撫でているように全身が粟立つ。
何で彼がここにいるの?
まさか、ずっと後をつけてたの?
……怖い。気味が悪い。
どういうつもりなんだろう。
「……っ」
私は息を呑み、慌ててカーテンを閉めた。
不意に夢のことを思い出す。
────誰かに殺された。
その“誰か”は、まさか向坂くん……?
「理人……」
ほとんど無意識のうちに、電話をかけていた。
波のように押し寄せる不安と恐怖が、私から平静さを奪う。
『もしもし。どうかしたの?』
「あ、あの……。今、向坂くんが家の外に……」
『え』
玄関は施錠してあるはずだし、自室は2階だし、さすがに入り込んでくるようなことはないだろう。
そう思うものの、何だか不安で堪らない。
『大丈夫? 何かされてない?』
「今のところは大丈夫……」
とはいえ、ストーカー紛いの行動だ。
彼はそういうタイプには見えないのに。
『よかった。でも、無視するしかないね。とりあえず刺激しないようにしよう』
例えば警察に通報したりしても、実害がない以上、取り合っては貰えないのだろう。
「だけど、何で急に────」
昨日まで何の関わりもなかったはずだ。
どうして、いきなり私に執着するようになったのだろう。
『怖いかもしれないけど、気にしないでいよう。不安で眠れないなら朝まで僕と話そっか』
理人は今出来うる最大限の気遣いをしてくれた。
彼が味方だ、という認識は、私にまとわりつく得体の知れない恐怖を振り払ってくれる。
「……ありがとう。もう大丈夫。理人と話したら安心出来た」
『そう? それならよかった。じゃあまた明日、迎えに行くね』
「うん、おやすみ」
通話を終えたスマホを、ぎゅ、と握り締める。
正直なところ、カーテンの向こうがまったく気にならなくなった、と言えば嘘になる。
(まだ、そこにいるのかな……)
だが、理人の言う通りだ。
向坂くんを下手に刺激して、実害を生んではまずい。
私は早めに電気を消し、ベッドに入った。
「…………」
カーテン越しに感じる視線が、気のせいであることを願いながら────。
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