第1話

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 どく、と跳ねた心臓が早鐘を打つ。  ざらざらとした砂粒が皮膚を撫でているように全身が粟立つ。  何で彼がここにいるの?  まさか、ずっと後をつけてたの?  ……怖い。気味が悪い。  どういうつもりなんだろう。 「……っ」  私は息を呑み、慌ててカーテンを閉めた。  不意に夢のことを思い出す。  ────誰かに殺された。  その“誰か”は、まさか向坂くん……? 「理人……」  ほとんど無意識のうちに、電話をかけていた。  波のように押し寄せる不安と恐怖が、私から平静さを奪う。 『もしもし。どうかしたの?』 「あ、あの……。今、向坂くんが家の外に……」 『え』  玄関は施錠してあるはずだし、自室は2階だし、さすがに入り込んでくるようなことはないだろう。  そう思うものの、何だか不安で堪らない。 『大丈夫? 何かされてない?』 「今のところは大丈夫……」  とはいえ、ストーカー紛いの行動だ。  彼はそういうタイプには見えないのに。 『よかった。でも、無視するしかないね。とりあえず刺激しないようにしよう』  例えば警察に通報したりしても、実害がない以上、取り合っては貰えないのだろう。 「だけど、何で急に────」  昨日まで何の関わりもなかったはずだ。  どうして、いきなり私に執着するようになったのだろう。 『怖いかもしれないけど、気にしないでいよう。不安で眠れないなら朝まで僕と話そっか』  理人は今出来うる最大限の気遣いをしてくれた。  彼が味方だ、という認識は、私にまとわりつく得体の知れない恐怖を振り払ってくれる。 「……ありがとう。もう大丈夫。理人と話したら安心出来た」 『そう? それならよかった。じゃあまた明日、迎えに行くね』 「うん、おやすみ」  通話を終えたスマホを、ぎゅ、と握り締める。  正直なところ、カーテンの向こうがまったく気にならなくなった、と言えば嘘になる。 (まだ、そこにいるのかな……)  だが、理人の言う通りだ。  向坂くんを下手に刺激して、実害を生んではまずい。  私は早めに電気を消し、ベッドに入った。 「…………」  カーテン越しに感じる視線が、気のせいであることを願いながら────。
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