激しさの前の波。

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激しさの前の波。

 心が渇く。 いくら水を与えても与えても、私の心は満たされない。不安の闇は私を苦しめ続けた。   仕事も3年目を向え、何もかも日常が色褪せて見える。  刺激が欲しい。 ハンマーで殴られるような痺れる刺激。  そんなものあるわけない。  私は毎日我慢し続けた。  私の気持ちを知っていたかのように、大学時代の友人から連絡があった。  たまには4人で遊ばないかと。 私の友人の一人は、夜の街で活躍していた。 あとの二人も私みたいに冴えない暮らしはしていない。 一人はお金持ちの男性と結婚していた。 もう一人は、海外を旅行しながら文章を書く仕事をしている。  私は嬉しかった。 待ち合わせは、金曜日。いつもなら、地味な服で出勤するが、今日は違う。  久々に濃いメーク、派手な服を着た。 気持ちはワクワクしていて、気分が良かった。 私は抑えていた何者かが弾けたような感覚を覚えた。私の本来の姿だ。 私は定時のチャイムがなると同時に目的地である新宿駅を目指した。 久々に会った友人たちは見た目は大人になっていたが、大学生の時と変わらない。  私たちはあれこれと話をしながら今日の遊び場である歌舞伎町に向かう。  歌舞伎町は独自の空気が漂う。 この街は、何でも溶かしてしまう。 角が出ていようが、しっぽが生えていようがこの街の形にはきれいに収まってしまう。  私たちは、市役所通りにあるビルに入る。 大学時代に来たのと同じホストクラブだと聞いたが、何となく雰囲気が変わった気がした。 店内に入ると、受付で手続きをした。 黒服の人に席を案内される。 私たちの席には、4人のホストが来た。 薄暗い店内には派手な音楽が流れ、たばこの匂いがした。 私の隣は、ハルトと言うホストがついた。  ハルトは、ベビーフェイスで長身だった。 シルバーカラーのスーツを着ていた。  ホストにも色々な人がいて、ワイワイと盛り上げるのが得意な人、静かに寄り添ってくれる人、疑似恋愛を楽しませてくれる人など様々だ。  ハルトは、どちらかと言うと静かに寄り添ってくれるタイプだった。  私の目を見て私の言葉を聞いてくれた。 私の心の渇きが癒やされていく。 私はこれを求めていたのだ。  私たちは、シャンパンコールも楽しんだ。 10万円以上の金額を払うと、ホストが集まりコールをしてくれる。 男性達が自分たちの為にコールをしてくれる姿は承認欲求が満たされていく。 いつも渇き苦しい私の心は、シャンパンの泡でかき消されたような気がした。 お金を払えば良いのだ。 良い刺激と、充実感。私は自分の給与では来れないとわかっていてもこの世界に入りたいと思った。    私たちは、帰り道にカフェにより、お互いの事を話した。皆それぞれ悩みがあり、満たされてなどいなかった。 私だけではないのだ。どんなに美しい世界に生きていようと、どんなに輝いていようと同じだ。 みんな枯渇した心をどうにか誤魔化しながら生きている。  彼女たちと、私の違いは良い世界に生きようと努力をするのか自分の殻の中でぐるぐると回り続けているかの違いだ。  私は、ただ打算で生きているだけだ。 今日までの私は打算で生きてきたのだ。 だけど今日、私の殻も打算も壊してくれた男が現れた。ハルトだ。  私は、ハルトに会うことを目標とし生きる。  今思えばこの日の私の前に向いた方向がいけなかった。前を向いたつもりで私は横に進んでしまった。彼らは職業として私に接客をしたまでだ。 私の勘違いは、私の将来を思わぬ方向に誘う。 私はパンクをした自転車に乗っているみたいにガタガタと音をたてながら走り出す。
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