1.あなたの瞳に

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オフィスの入口に目を向ければ、照明のスイッチに手を当てたままこちらを心配そうに伺う姿。 「三浦さん……」 何故こんな時間まで、と口にしようとして思い止まる。 隣の海外事業課の課長でもある三浦陽樹は、とにかく仕事のできる男で、抱えている案件も人の三倍はあると言われている。 美南の部署は主に国内担当なので接点はないけれど。まれに事業課全体の朝礼で業務の報告が行なわれると、その仕事量に圧倒される。 しかもその日本人離れした整った見た目で、社内の女性陣の注目の的。どうやら祖母がイギリス人のクオーターらしく、髪も瞳も全体的に色素が薄く、かつ脚の長さも日本人離れしている。 「どうしたの、こんな時間まで」 すたすたと室内に入ってくる三浦に、さっきの独り言は聞こえただろうか、ていうか備品を蹴ってしまった……と思い返すと居た堪れなくなった。こんな時間まで残業して、さらに社内の王子と名高い三浦にあんな親父臭いところまで見られて散々だ。 「三浦さんこそ」 「僕は現地の時間に合わせて会議してたから」 「ああ。時差があると大変ですね」 その点だけは国内事業課で助かったかも、と思う。
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