436人が本棚に入れています
本棚に追加
ーーーーー平日なのに、申し訳なかったな。
ただでさえ忙しいひとなのに。会いたいと思う気持ちを止められなかった。
子どもじゃないんだから、と自分に呆れてしまう。
こんな気持ちになるのが久し振りで、どう振る舞ったらいいのか忘れてしまっている。
ピンポーン、とインターフォンの音が響いて、我に返った。
エプロンを放り投げて、慌てて玄関を開けると、そこには今考えていたひとの姿。
「お、おかえりなさい」
よくよく考えれば、いらっしゃい、とかお疲れさまです、とか相応しい挨拶は他にもあるのに。
思わず零れた言葉に、陽樹はくしゃっと笑った。
玄関に体を滑り込ませると、そのままぎゅっと美南を抱きしめる。
上がり框のせいで、陽樹の顔がすぐ近くにあるのがめずらしい。
「ただいま」
耳許でそう囁くひとがとても愛しくて。
ぎゅっと広い背中に腕をまわした。
最初のコメントを投稿しよう!