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「誰かいたらどうしようかと思ってドキドキしました」
「さすがにその状況で“来て”、なんて言わないよ」
「とは思ったんですけど。よく考える前に動いてたから」
そう言ってはにかむ美南に堪らなくなって、そっと引き寄せる。
会社だし、と思いながら緩く抱き寄せると、それだけで満たされていく。
「なんでうちの課来たの?」
「資料届けてくれって」
「そっか」
「なんて。本当は私の一日の頑張りだから見てもらいたいなって。デスク置きました」
「ん、戻ったらすぐ見る」
「でもそちらの専門じゃないですよ。参考資料です」
「それでも見る」
子どものように言い募れば、ふふふと穏やかに笑っている。
その表情を見て、ちょっと勇気を振り絞ってみた。
「週末なんだけど、うちに来て?」
少しでも躊躇う素振りがあったら無理強いはしないようにしよう、とじっと様子を伺った。
けれど一瞬の間の後、小さく頷く美南に、どきんと胸が高鳴った。
「いいの?」
思わず尋ねれば、美南は首を傾げている。
「あ、うん。嬉しいんだけど、この前さ」
気になっていたことを尋ねれば、ぎゅっと抱きつかれた。
「恥ずかしかっただけです……」
胸に消えそうな、小さく囁く声。
髪の隙間から見える耳は真っ赤で。
思わず旋風に唇を寄せていた。
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