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8.決戦の土曜日
「ごめんね、遅くなって」
西日の差す玄関に飛び込んできた陽樹に、ゆるゆると美南は首を振った。
まさかもっと遅くても良かった、とは言えない。
「荷物、これ?」
玄関に置いてあったバッグを指さす陽樹に小さく頷く。
「じゃ、行こうか」
ドキドキしながら、差し出された反対の手を取った。
「ごめん、慌ててたから……手、汗ばんでるかも」
駐車場に向かう途中、陽樹がそういって離そうとするので、思わずぎゅっと繋いだ手を握りしめてしまった。
「美南?」
「いえ…」
「ん?」
「全然、大丈夫ですから」
そう言って再び手に力を込めると、陽樹が眉尻を下げた。
「そんなこと言われると、嬉しくておかしくなるかも」
「何ですか、それ」
「言った通りだよ。今週全然会えなかったから」
そう言って陽樹も繋いだ手に力を込める。
くいっと軽く引かれて、近かった距離がさらに縮まった。まるで腰を引き寄せられるくらいに。
「会いたくて狂いそうだった」
そう耳元で囁かれて、一気に顔が熱くなった。
慌てて押さえようとしたけれど、絡まった指は強く握られていて、全く離せない。
ーーーーー緊張する。でも会いたくて待ち遠しかったのも本当だ。
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