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9.二人の時間
「緊張します」
そう言ってぎこちなく笑う美南の手を握り締めながら、エレベーターを降りてマンションの通路を歩く。
「普通の家だよ」
「うーん。でもこの時点で随分お洒落な建物だと思うんですけど」
「そう?壁が黒っぽいだけじゃない?」
改めて共有部分をみまわしても、それほど特別さは感じない。外壁や廊下の壁が黒に統一されているから、ちょっとシックに見えるだけだと思う。
でもきょきょろと辺りを見回しながら着いてくる美南が可愛くて、そのままにしておいた。
というか、家まであと少しだから何とか我慢した、という方が正しい。
「はい、どーぞ」
「お邪魔します…」
恐る恐る靴を脱いで、そっと廊下に上がった美南の腕を軽く引いてみる。
すると呆気なく身体は斜めを向いて、ぽすんと腕の中に収まった。
家のなかに上がった美南と、まだ玄関にいる自分。ほんの数センチとはいえ、いつもと身長差が変わっている。
普段より近くにある頭のてっぺんに軽く唇を寄せた。
大きな瞳がこちらを伺うようにみつめてくる。やっぱり我慢が出来なくなって、掠めるように口づけた。
そのまま抱き竦めてしまおうとしたけれど、やんわりと腕から逃れられてしまった。
美南は探検をするんだと意気込んで家のあちこちを覗いている。
と言ってもさほど大きな家ではない。ほとんど使っていないため物のないダイニングキッチンとリビング、それに寝室と仕事部屋兼書斎くらいだ。
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