10.一緒にいるだけで

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「あー、でも夕飯行き損ねちゃったね。お腹空いたでしょ?」 「確かに」 「何か頼もっか」 「そうですね。今更出かけるのもなんですし」 そう言った美南に、陽樹はにやりと笑った。 「それに……家ならずっとこのままくっついてられるしね?」 むき出しの背中を撫でては、美南が身体を捩る前に抱き締める。 「……くっついたままじゃご飯食べられないですよ」 「大丈夫だって。いつかベッドに寝そべったまま食事してみたかったんだよね」 「なんですかそれ」 「んー。映画になかった?どこかの王様が寝たままご飯食べるの」 「それって果物とかですよ、多分。ご飯はさすがに食べないですって」 「そうかなあー」 「そうです」 起きますよ、と言ってベッドから降りようとした美南にかかっているシーツを抑える。 するりと身体だけが抜け出してしまい、きゃっと悲鳴が響いた。 「何するんですか!」 「んー?でもさっきいっぱい見たし」 「そういう問題じゃないです!」 今度はお芝居ではなく美南の眉が吊り上がったので、陽樹は諦めてシーツを華奢な身体に巻き付けた。 「じゃあ一緒にシャワーする?」 「しません!!」 「えー?」 「えーじゃないです」 「やだ」 「もう、子どもみたいですよ?」 眉尻を下げて困ったように見つめる美南に、ごめんごめんと謝った。 「浮かれてるんだよ、ずっと美南に触れたかったから。……幻滅した?」 「私だって、夢みたいって思ってます」 そう囁くと、美南はすっと陽樹の頬に唇を寄せた。 驚きで固まっている陽樹に微笑むと、きつくシーツを巻き付けた美南は音も立てずに寝室を出て行った。 一人残された陽樹は思わず目を押さえる。 これから一生振り回される気がすると同時に、それも嬉しいと思ってしまう自分に、苦笑いが洩れたのだった。
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