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第23章 一度きりならない方がまし
「…そう。どうやら村の守り神の本体は、湖の中にある」
「やっぱり」
わたしと由田さん、それと沖さんと瀧井さん及び神野さんは。ほぼ同時に綺麗に声を揃えて頷いた。
ほぼ真っ暗な画面を頑張って目を凝らして眺めても、そこから見て取れる情報はほんとに限られていたけど。
ほとんど気配と物音だけで成立してるその動画の中で、漠然とだけど人間サイズの何かが水の中に入っていった。ってことと、ちょっと大丈夫?とつい心配になるくらい長い時間が経ったあと、ざぶんと大きめの水音がしてその人が湖の中から再び地上へと上がってきた。ってことだけが伝わってきた。
「双子の片方だけが服をその場で脱いで、当たり前みたいにすっと水面の下へと潜っていったんだ。相当の時間が経ってからようやくそいつは水から上がってきたけど。その間もう片方の奴は、何するでもなくのほほんとその場でぼんやり座ってるだけみたいに見えたな」
「…結構カメラから距離ありますよ。これでよく、彼らの様子が見て取れましたね」
蒲生先生の淡々とした説明に思わずといった様子で突っ込む沖さん。その横から米田さんが口を挟む。
「肉眼で見るとこれほど見にくくはなかったんですよ。あと、ここまで遠くは感じなかった。人間の目ってある程度暗さに慣れると案外見えるようになるもんなんだよね。そういう意味ではカメラレンズより優秀かも。まあ、暗視カメラとかだったらもちろん。その限りじゃないけど…」
「だよね」
「ですよね」
最後、苦笑いして付け足す台詞に神野さんとわたしが一斉に同じタイミングで頷いた。
現地に赴いた彼らが口々に説明するところによれば、水から上がった方の双子はおそらくタオルのようなもので全身を拭いて再び服を身につけ終えると待っていた方と連れ立って山の奥へと姿を消した。
灯りもない暗闇の山へと分け入って跡をつけても、おそらく山育ちでもなく体力に特に勝るでもない自分たちがこの双子たちにとてもついていけるとは思えない。よく知らない土地で足許も覚束ないことを考えると、どう考えても怪我する未来しか見えないのでその先を追うのは即刻断念した。
彼らが去ってしばらく間を置いてからそっと入水ポイントに近づいてその周辺を観察し、万一戻ってきた双子に見つからないうちに湖を後にしたのだという。
わたしは恐るおそる、ちょっと目の下に隈が出来てるように見える蒲生先生に向かって尋ねてみた。
「それで。…何かわかったこととか。ありました?」
彼はこっちを見返さず、PC画面に表示された動画に視線を据えてきっぱりと答えた。
「うん。前回行ったときは、闇雲に湖を探索しても結局スポットがはっきりしなかったから。ピンポイントで場所が判明したのは前進だと思う」
そうだった。わたしが知らない間に既に一度、先生たちはその湖を自分の目で確認しに行ってるんだよね。
そのときは、村の神さまとの接触可能な場所はここだって確信を得たのに。実際にどうやってコンタクトを取ればいいかはどうしてもわからなかった、って言ってたから。今回双子のやり方を目の当たりにしなければ、結局何のヒントも得られずに終わってたかもしれない。
そう考えると苦労した甲斐はあったと言えるんだな。とわたしはついしみじみとなり、改めて先生に労りの声をかけた。
「本当にお疲れ様でした。お手数おかけして、すみません。わたし何も出来なくて…」
「それは。全然気にしなくていいけど」
「別にまだ何も終わってないよ、追浜ちゃん。今回は正確な場所が判明しただけだから」
ぺこぺこと頭を下げるわたしに目を向けもせずぶっきらぼうに返す蒲生先生。そこに気軽に割って入るように、米田さんがあっけらかんと口を挟んだ。
「…え?」
「お告げポイントがわかったら、それを叩いて終わりじゃなかったの?」
間抜け面をぼけっと上げたわたしと、横から疑念の問いをかけてきた由田さんの声が重なった。
米田さんはやれやれ、わかってないなぁとばかりに大袈裟に肩をすくめる。
「そう簡単にはいかないよ。だって、神さまとの接触ポイントは水中だったんだよ?まさか双子を追っかけて、俺たちも水に飛び込んで検証するわけにはいかないじゃん。夜で真っ暗くてどうせ潜っても何も見えないし。何の準備もしてないし」
それはそう。
その場に居合わせてた山川さんも援護射撃気味に口を挟む。
「あの二人、初めて遠目に見たけど。確かにそんなに体格的には俺らと変わんないかもだけど、肉体のスペックがどう考えても桁外れに違うよ。あんなに長い時間水中に滞留してたことを考えると、中で何してたかってことだけじゃなく単に湖の水深がかなりある可能性もあると思う。夜だし、水の透明度も知れてるからあの場で仮に潜っても視界が悪くて。何が何だかわからなかったと思うよ。それに時季的に、もう水だってかなり冷たい。それなりの標高で時間も深夜だし、普通なら一発で心臓止まってると思うよ」
納得。
素直に頷くわたしの横で、不満を述べるというより事実を冷静に確認する口調で由田さんが蒲生先生の方に向けて質問を投げかけた。
「湖の底のどの辺りに神さまポイントがあるかは、先生の霊感で岸からでもわかったんでしょ?サーチは可能でも、遠隔で破壊はできないってこと?」
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