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高校の頃はこうしてよく庭の雑草を刈り取っていた。じいちゃんに頼まれて来ていたけど、ここに来れば美味しいご飯が食べられるし、雑草を刈り取ることでお小遣いも貰えるので、むしろ喜んで来ていたくらいだった。
1人で黙々と草を刈っていると、後ろから声をかけられた。
「あら、もしかして佐倉さんのところのお孫さん?」
振り返り声のする方に目を向けるとお婆さんが笑顔でこちらを見ていた。近所の人だろうけど見覚えがある人でもなかったので、とりあえず笑顔で肯いた。
「あなた昔そうやってよく草刈りに来てたわよね。懐かしいわ」
言われて驚いた。まさかあのときの自分を知っているとは。
「俺のこと覚えてるんですか?」
「ええ、もちろん。あのときは私も色々お世話になったから。結構助かってたのよ」
そう言えば……ついでだからと言って、近所の家の電球替えたり、壊れた家電直したりして更なるお小遣い稼ぎをしていた。……もっとも家電についてはほとんどは原因が分からず電気屋へ修理出したり新しい家電を買う手伝いしただけだったけど。
「佐倉さん亡くなってこの家どうなるんだろうって心配だったの。あなたがここに住むの?」
はい、と即答したいところだったけど、まだ何も決まっていない現状でははっきりと答えられず、どう答えようか迷ってしまう。
「じいちゃんに託されたんです。これからどうしようかはまだ悩んでるんですけど、ちゃんと住める状態にはしようかなと思って」
かろうじて絞り出した俺の言葉を聞いて、その人はとても嬉しそうな笑顔を見せた。
「最近この辺りの土地を買おうとしている人達がウロウロしてて。なんでもホテルを建てるだとか。ここもそんな人たちの手に渡っちゃうんじゃないかって不安だったのよ。あなたがここを守ってくれるなら私達も安心して生活できるわ」
そういえば隣の町に大規模なテーマパークができるとかそんな話があった。少しは交通の便も良くなって人も大勢来るようになればホテルも必要になるだろう。だけど俺は自然豊かなこの町が昔から大好きだった。
「そんな話あるんですね。俺もここにホテルは建ってほしくないですよ」
それを聞いて安心したのか、「頑張ってね」という言葉を残して帰っていった。その後も1人草刈りを続けていたら、今度は男の人に声をかけられた。
「あんたが佐倉さんとこの孫かい? 草刈りやってるって言うから、これ持ってきたんだ、使ってよ。そんなんじゃいつまでやっても終わんねえよ」
その人の手には草刈機があった。たぶんさっき来た人、竹内さんが俺が鎌で地道に草を刈っているのを見て心配したのだろう。
「あ、いえ、大丈夫です。急いでもいないので地道にやろうかと」
そう言っても全く聞いてもらえず、半ば強引に俺の手に渡してくれた。丁寧に使い方まで説明してくれて。
一度は遠慮したものの使ってみるとたしかに楽で、手で刈っていた時の3倍の早さで草を刈ることができた。
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