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「それでもいいさ、僕の目的は他にもあるんだ。僕がこのまま逮捕されれば僕は会社への恨みから愛那をストーカーしたと証言するだけだからな。あのクソ会社、僕の才能を妬んで首にしやがって。仕事量だって常軌を逸してる。僕はストレスで病んだことが原因で、その社員の1人である愛那にストーカーしたんだ。これが明るみになればあの会社も終わりだよ。愛那、君も自由になれるんだ」
再度、小野田さんは私の方に不気味な笑顔を向けた。
「愛那、これは君のためにしたことなんだ。また会えたらその時は……」
その時は、どうするんだろう。私は私を支えてくれている浩介の腕を握った。
「小野田さんが首になったのは、貴方の勤務態度が原因です。できると口ばかり達者な割に仕事の質は低いし、遅刻や欠勤も多い。コミニュケーション能力が低く孤立気味だった貴方に唯一優しく接してくれた原田さんにこんな酷いことをした貴方の主張が通るとは思えませんね」
窪田さんの鋭い反論に小野田さんは何も言い返せず睨み付けるしかなかった。私は浩介に目配せすると、ゆっくりと小野田さんに近づいていった。
「小野田さん、確かにあの会社は労働時間が長い割に給料は高くないし、キツくないといえば嘘になります。だけど、その気になれば私は自分の力で自由になることはできます。自分の行動の原因を人に押し付けないでください」
涙を流しながら話した言葉は伝わっただろうか。小野田さんはただ項垂れていた。窪田さんに連れられて歩き出そうとしたとき、浩介が前に出てきた。
「小野田さん、これだけは忘れないでください。今回あなたの自分勝手な行動は、ただ愛那を傷つけただけなんです。何も悪いことをしていない、むしろ優しさを持って接したあなたにずっと苦しめられてきたんです。それは反省してください。そして、俺たちは全力で彼女の傷を癒やします。あなたのことなんてすぐに忘れさせますから」
小野田さんは浩介を一瞬睨んだ後、窪田さんと警察へ向けて歩きだした。
私も被害者として何度か警察に行ったり、会社でも大騒ぎになったりもしたけれど、小野田さんの行動や思考の異常性が取り上げられてしまったために、会社へのダメージはそれほど大きくはなかったらしい。
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