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5.新しい生活
小野田さんとは示談が成立した。私の前に二度と現れないことを約束し、浩介達に支払うだけのお金を貰って事件は終了した。
事件が終了したことを報告しに来た日。茶座荘はやっぱりバタバタしていた。
「ごめん、最近忙しくて家が片付いてなくて。とりあえずそこ座って待ってて」
そう言われたダイニングテーブルの上は書類だらけだった。私は苦笑いしながらダイニングテーブルから始まり、台所などの水回りまでを片付け始めた。結局浩介と橙吾、窪田さんの3人とゆっくり話ができたのは私が来てから30分後のことだった。
「長いこと待たせちゃってごめん。片付けとか掃除やってくれて助かったよ。あれからどうしてる?」
お茶を一口飲んだ橙吾が口を開いた。
「うん、会社は辞めて仕事と新しい家探ししてる。でも仕事無いと家もなかなか探せないんだよね」
示談が成立したとはいえ会社には迷惑かけたし、小野田さんの手が届かない環境に身を置くため、仕事も家も一新しようと思ったのだけれど、収入が安定しないと家もなかなか探せない現状に焦っていた。
「じゃあさ、ここに来ればいいじゃん。部屋も空いてるし、仕事なんていくらでもあるでしょ。……給料は要相談だけど」
浩介の提案に驚いて橙吾の顔を見る。橙吾も驚いて浩介を見ていた。
「愛那に何でも屋の仕事させるってこと? あまりにも畑違いな仕事過ぎないか? しかもここに住むなんて……」
「基本はサポートでいいじゃん。今みんな忙しくてここの管理が出来てないだろ。あと……ご飯作ってくれる人も欲しいし」
高校の頃、両親が働いていてご飯に困っていた橙吾の家に浩介と私が集まって、私がよくご飯を作っていたことを思い出した。おそらく男だけの生活でご飯がまともに作れていないのかもしれない。
まあ、それは別としても、引っ越しができて、それなりな仕事を貰えて、精神的な部分まで含めて安心感のある環境が揃っているこの場所にいられることは私にとってはありがたい提案だ。
「みんなが良ければ私にとっては嬉しい話だよ。足手まといにならないように頑張るから、置いてもらってもいいですか?」
人生とは不思議なもので、あんな辛い出来事から素敵な再会のきっかけと新しい生き方を授けてくれることもあるのだ。私はここでなら笑って過ごせるんじゃないか。そんな期待で胸が一杯になった。
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