2.新たな居場所

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2.新たな居場所

 車で30分ほど走った先に建物が見えてきた。入口に〈茶座荘(さくらそう)〉とある。僕は疲れていたのか、案内された部屋に入ると備え付けのベッドに横になり、そのまま朝までぐっすり眠ってしまった。  朝目を覚まして部屋を出ると、リビングらしき広間に男の人が3人座っていた。1人は昨日僕をここに連れてきた佐倉さん。佐倉さんは僕と目が合うと、立ち上がって2人に僕を紹介してくれた。  1人は安嶋(あじま)橙吾(だいご)さん。佐倉さんと同級生で、爽やかな黒髪短髪のがっしりとした体格の人だ。  もう1人は窪田(くぼた)保人(やすひと)さん。安嶋さんの知り合いで、こちらも体格がいいけど細マッチョ風の安嶋さんとは違うふっくらとした体つきに不思議と安心感がある。 「橋元翔太です。突然お邪魔してすみませんがよろしくお願いします」  頭を下げると温かく迎え入れてくれた。みんな僕より年上だけど、距離感を縮めるためか下の名前で呼んでほしいと言われので浩介さん、橙吾さん、保人さんと呼ぶことにした。 「でさ、翔太に早速仕事頼みたいんだけど、今日空いてるかな?」  今日はバイトも無いので頷くと、橙吾さんは嬉しそうに僕の肩に手を置いた。 「今日、病院で入院患者の子供たちの交流会があって、歌を歌う時に伴奏してくれる人が欲しいんだ。翔太やってくれないかな」 (交流会……子供たちの前で伴奏!?) 「いやいやいや、僕人前が苦手なんです。そんなの無理ですよ!」  助けを求めるように浩介さんを見ると、笑顔で言った。 「何言ってんの。昨日何百人の前でギター弾いてたじゃん。交流会はせいぜい20人だよ。楽勝でしょ」 (違う、違うんだ。そういうことじゃなくて……) 「昨日は、僕なんかオマケなんで誰も見てる人なんかいないから出来たんです。それに、僕、子供が苦手で……」 「伴奏だってそんな目立たないって。絶対伴奏があったほうが盛り上がるし楽しいよ。さ、朝ごはんできてるからさっさと食べて行くよ」  いつの間にかテーブルの上にトーストしたパンとスクランブルエッグ、ソーセージの乗った皿が置いてあった。僕は半ばヤケになりなからトーストを囓った。
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