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3.気になる存在
ギターを片付けていたら、女の子がこちらにやってきた。
「ギター上手ですね」
それが彼女の最初の一言だった。
「ぼ、僕なんか全然。君もギター弾くの?」
突然の問いかけに驚いてぎくしゃくと返すと、その子は首を横に振り口を開きかけたけど、戻ってきた橙吾さん達の姿を見ていなくなってしまった。気になって帰りの車の中で浩介さんに聞いてみた。
「へぇ、あの子話しかけてくれたんだ」
浩介さんはその女の子のことをよく知っていた。名前は中原沙優。高校生だけど、高校はずっと休んでいる。入院しているのだから当然なのだが。
理由は分からないけれど大量の睡眠薬を服用しては病院に運び込まれる、を繰り返しており、病院内でも対応に悩んでいるとのことだった。
「なかなか誰とも心を開いてくれないらしくて。また機会があれば話聞いてみてくれないか」
僕はうなずいてはみたものの、自分から女の子に声をかけるなんて出来るのだろうか。まぁ、また会えれば、とあまり深くは考えずにいた。
それから僕は何でも屋の仕事をして過ごしていた。引っ越しの手伝いや舞台のセット設営など、体力仕事が多いものの、橙吾さんたちが優しくサポートしてくれて何とかついていけた。
そんな中、また病院へ行くことになった。交流会は評判が良く、定期的に実施されているらしい。
「翔太の伴奏、子供たちからの評判良いみたいだよ。今日もよろしくな」
浩介さんにそう言われたけど、僕はやっぱりあの場は苦手だ。子供たちにどう接していいか分からない。引きつる顔を必死に抑えながら交流会を無事終えると、またあの女の子がやってきた。
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