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1.決別と出会い
僕は左の頬を抑えながら1人夜の街を歩いていた。人に殴られたのは初めてで、痛みよりもショックに打ちひしがれていた。
きっかけはライブ終わり、楽屋での香苗さんの一言だった。
「翔太くん、今日もカッコ良かったよ!」
僕の右腕に抱きついてきた香苗さんは、僕がサポートで参加しているバンドのボーカルである智裕さんの彼女だ。
いつもの香苗さんなら智裕さんの元に向かう筈なのに。僕は慌てて香苗さんから離れた。だけど「ちょっと顔貸せ」の言葉とともに僕は楽屋の外に出された。智裕さんは僕を壁に押し付けて睨みつける。
「お前香苗に色目使ってたのか」
身に覚えがなさすぎて首を横に振る事しかできずにいると、代わりに答えたのは後を追いかけてきた香苗さんだった。
「智裕最近いろんな女の子と遊びまくってるじゃん。その間翔太くんが一緒にいてくれたの。智裕が悪いんだよ」
僕はお金がなくて智裕さんの家に居候させてもらっていた。智裕さんが帰ってこない時、香苗さんと二人で過ごすことも少なくはなかった。だけど僕は色目を使った覚えなんて1ミリも無かった。
「翔太くん、今日からは私の家に来なよ。私が翔太くんの面倒見るからさ」
僕が拒否の意志を示そうとした瞬間、僕の体は後ろに倒れた。体を起こすと共に左の頬がズキズキと痛み、殴られたんだと気づいた時には智裕さんから「もう帰れ。二度と俺の前に現れんな」と言い捨てられた。
僕は私物を手に取り1人ライブ会場を後にした。香苗さんがついてこようとしたけど、「僕は香苗さんと付き合うつもり無いから」と言うと香苗さんもそれ以上は追いかけてこなかった。
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