アラフォーDV崖っぷち、所持金540円! 

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 今日が暖かい日で本当に良かった。  私は今ぶかぶかのTシャツと半ズボン姿で、でかいサンダルをつっかけ薄暗い路地を全力疾走している。右の瞼と頬には青痣をこさえ、前歯は一本無い。いうまでもなくDV男から逃げてきたのだ。      頼るべき両親は他界したし、親戚はみな葬式で会う程度の心の距離感。遠縁の訳アリ女38歳が転がり込む余地などどこにもない。  ケンジと私は、半年前まではそれなりにうまくやっていた。でもケンジが勤め先で無断欠勤を繰り返し、クビになると雲行きが怪しくなってきた。  イラついたケンジは私を束縛し、一切の外出を禁じた。あげくスマホを割られ、洋服と靴と靴下、カバン、財布、通帳、保険証、たまごっち、キーホルダー、メイクポーチ、爪切り、ハンカチ、古新聞、古雑誌、ぼろきれ、空き瓶などを、トイレットペーパー、ミニティッシュなどと交換、もとい燃やされて、すっ裸で家の中をうろつく生活を強いられたのである。  私は従順なフリをしてチャンスを待った。そして今日ケンジが悪友から飲みの誘いを受け、快諾しながら「まり、おめえ、絶対に外に出るんじゃねえぞ」睨みをきかせてきたから、「出られるわけないでしょ、こんなカッコウで」ぬっと仁王立ちしてみせると、単細胞のケンジは満足げに出ていった。  私はすぐケンジの趣味の悪い青い羽根つきの六弦やら、黒地に複数の蛍光塗料をぶちまけた鋲付き袖なしのジャケットやら、力量不足で持ち腐れたアンプやらを掻き分けた。埃まみれの服を着て、散らばった小銭をポケットに突っ込みボロアパートを飛び出した。
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