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ワカクサは小さい店舗ながら一通り揃っているため、夜でも結構客がいる。惣菜コーナーは一番奥だ。水曜なら大抵値引きのから揚げが買えるが、今日は土曜だった。
なかったら諦めようと思いながら向かうと、陳列棚に並んだ惣菜パックはもう値引きシールが貼られていた。素早く目線を走らせると、
――あった!
一つだけ残っていたパックを喜び勇んで手に取った。すると、側から女性のぶっきらぼうな声がした。
「おじさん、それ、譲ってよ」
一瞬、それがおれに向けられた言葉だと気付かなかった。
見れば相手は高校生くらいの女の子だ。ジーンズに白いフリースを着て、髪を後ろで一つに結わえている。涙袋のはっきりした目が、睨むようにこちらを見つめていた。まるでおれが悪いことをしたみたいじゃないか。
「おれもこれ欲しいから」
当然の権利であるかのように、言い返していた。
女の子には見向きもせずにから揚げを持ってレジに向かう。おれは間違っていない。まだ二十代なのにおじさんはないだろう、とさえ思っていた。
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