器の中身

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(7)5月14日    電車がホームに滑り込んで来た時、メアリーは不意に後ろから強く押された。  周囲にいた人たちは、はっと息を飲む。    メアリーの華奢な体躯はそのまま線路の上へと投げ出されるだろうと思われた。誰しもが目を覆いかけたその瞬間、何者かの手がメアリーの上腕を掴んで彼女の体をホーム側へ引き戻し、自分の胸で受け止めた。それと時を同じくして特急電車が通り過ぎて行った。    あまりの恐怖に震え上がっていたメアリーはしばらく動けず、そのまま助けてくれた人に抱きしめられたままであった。    黄色い制服を着たその男性は言った。 「間に合って良かった。また会えたね」    そう言われてメアリーは相手の顔をじっと見つめる。  確かに面識はある。赤い髪をした親しみやすい笑顔は覚えている。でも、残念ながらその人の名前を思い出せなかった。    すると、それを察したその男性は 「オスカーだよ。前にパーティーで会ったよね」 と自ら名乗った。    メアリーはしばらく思い巡らせてから 「ロボット・エンジニアの方でしたね?」 と尋ねた。    オスカーは大きく頷いてから 「そうだよ」 と答え、それから声を潜めて 「ここは安全じゃない。とりあえず別の場所へ」 と伝えた。メアリーは黙って頷く。    オスカーはメアリーの手を引き、混み合った駅を出て、官庁街とは反対方向に進んだ。  黄色い鞄を肩から掛けた黄色い背中の男とそれに寄り添う灰色の背中の女。ふたりは夜の闇に消えた。     (6)5月14日    教育局総務課のオフィス内に20時を知らせるけたたましいチャイムが鳴り響く。  メアリーは慌ただしく自分のデスクを片付けて自分の職場を後にした。  自分が使っていた端末はいつも通り電源を入れたままだった。終業後に管理課の人間がその日の業務が効率的に行われたかどうかを確認する作業を済ませてから電源を切ることになっているからだ。    オフィスのある3階から階段を降りて外に出る。いくつも同じようなビルが建ち並ぶ官庁街をメアリーと同じく灰色の制服を着た役所勤めの者たちが一斉に最寄りの鉄道の駅へ向かって歩いて行く。    官庁に勤務しているたくさんの人たちが同時に帰路につくので、当然ながら駅は混み合い、この日もメアリーは30分以上待ってようやく駅のホーム内に進むことが出来た。  ギリギリのところでひとつ前の電車には乗れなかったので、メアリーはホームに出来た長い列の先頭になった。  混み合ったホームの端に立っていることはあまり良い心地はしなかったが、この列の最後尾に並び直すのも嫌だから文句は言えない、メアリーは我慢することにした。    しばらく待つと、駅の構内に「次の電車は特急です。この駅には止まりません」とアナウンスが入った。  それを聞いてメアリーは少しだけがっかりした。    大きな警笛を鳴らしてから電車が猛スピードで近づいてくるのが見えた。     (5)5月5日    エミリーに口頭で伝えられた通りにメアリーは電車を乗り継ぎ、迂回する経路を徒歩で移動した。そうしてメアリーは目的地である郊外にある古びた一軒家へ辿り着いた。    玄関のドアにはその古民家に似つかわしくないドアホンが取り付けられていた。  メアリーはドアホンのボタンを押して前もって教えられていた合い言葉「おしゃべりはしくじる」を伝えると、ドアのロックが外れた音がした。どういう意味の言葉なのかは分からないが、ちゃんと相手に通じたのでメアリーは喜んだ。  メアリーは恐る恐るドアを開いて中に入る。薄暗い通路を通って明るいリビングへやって来ると、自分の知らない人たちが10人ほど集まっていた。青色の制服を着た教員、緑色の制服を着た職人、黄色の制服を着たエンジニアなど様々な職種が集まっていた。業種別に制服が決まっているので参加者の多様性は一目瞭然であった。    ややあってから、灰色の制服を着たエミリーがメアリーの姿を見つけて 「迷わなかった?」 と尋ねたので、メアリーは 「大丈夫です」 と答えた。    その場のリーダーらしき銀髪の年配の男性が 「新入りさんが到着したってことは、もう全員が揃ったのかな?」 とその場にいるみんなに声をかけた。青い制服を着ているから職業は教員に違いない。    すると、エミリーが周りを見渡して 「まだオスカーが来てないわ」 と答えた。それを聞いて年配の教員は 「新メンバーより遅れるとは、オスカーにも困ったものだ」 と愚痴を漏らした。    それを受けて、緑色の制服を着た女性が 「今回はどんな言い訳をするのかしら。楽しみだわ」 と皮肉めいた口調で言ったので、その場にいたみんなが笑った。    エミリーは 「オスカーは遅刻の常習犯なのよ」 と添えた。何人かが笑った。    そんな折、リビングにあるインターホンが鳴った。その遅刻したオスカーという人が到着してドアホンを鳴らしたのだ。    インターホンから「余興はおしまいだ」と聞こえた。それが合い言葉だったようで、エミリーが玄関のロックを解除した。    そして、黄色の制服を着た男性がリビングに現れた。  制服が黄色だからこの人はエンジニアなのね、と思いながらメアリーはその遅刻者を観察した。  まず目を引いたのは彼が肩から斜めがけしていた大きめの茶色い鞄である。事務職のメアリーの職場の周辺ではあまり見かけない。  その次に本人に目をやると、体格としては逞しい部類であるが背はさほど高くなく、赤い髪が特徴的だが顔がハンサムなわけではない。ただ、人懐っこい印象があり、第一印象は悪くなかった。    早速、リーダー格の教員から質問が飛ぶ。 「オスカー!今日はどうして遅刻したんだ?それにその荷物は何だ?この集まりにはふさわしくないぞ」  それを受けて、黄色の制服の遅刻者は 「ウィリアム、質問はひとつずつお願いします。まず、遅刻の理由はこの鞄と手土産を準備するのに時間がかかったからです。支給されている鞄に不釣り合いな大荷物を詰め込んだら途中で保安警察に捕まってしまいますからね。それで、仕事場にあった機械部品を入れておくためのケースをちょっと改造して鞄を作ったんです。これを持ってくるためにね」 と言って、鞄の中からひとつの「鈍器」を取り出した。      その場にいた誰もが大いに驚き、その後、口々にオスカーを非難し始めた。    それもそのはずだ。  本を所有することは犯罪だが、本を作り出すことは遙かに重罪なのだ。もしもこのことが保安警察に露見した時にはこの場に居合わせた者全員が連座させられて罪に問われるだろう。  オスカーのせいでこの場にいる全員が期せずして重犯罪の共犯者となってしまったのだ。    そうした激しい非難を受けても、オスカーと呼ばれたその男性は涼しい風で 「そんなに怒る前に、これがどういうものかを御自分で確認して下さい」 と促す。    一同は互いに目で牽制して譲り合ったが、結局は年長者のウィリアムが恐る恐る「鈍器」に手を伸ばす。    手が触れると、ウィリアムは 「あれ?」 と言ってから、高笑いし始めた。    それを受けて、他の人たちも「鈍器」を手に取って確認し安堵の表情を浮かべた。    エミリーから「鈍器」を渡されたメアリーは、とても驚いた。  何より、とても軽かったのだ。  外見は分厚い書籍に見えるのに実際はプラスティックで作られた本のレプリカといえる代物であった。実際にページがあるようにしか見えない天地と小口の部分はそれぞれが精密な工作機関で削り出されたプラスチックの板であった。  これは本じゃないから犯罪ではない。  メアリーが驚きつつもその出来映えの素晴らしさにしげしげと見入っていると、オスカーがやって来て 「気に入ってくれたかな?僕はオスカー。よろしくね」 と挨拶した。メアリーは 「私はメアリー。それにしても驚きました。ご専門はこういった精密な工作なのですか?」 と思わず訊いた。オスカーは、よくぞ訊いてくれた、とばかりに胸を張って答えた。 「僕はロボットが専門なんで、職場で要らなくなったプラスティックを有効活用しただけですよ。いつもいたずらが過ぎるんでここのみんなから、特にウィリアムから叱られています」    メアリーはあっけにとられた。     (4)5月4日    仕事を終えて帰宅したメアリーは、シャワーを浴びて、洗面台の鏡に向かい。自分で前髪を整えた。  カットされた亜麻色の髪が洗面台の排水口へ流れて行く。  この髪の色は父親譲りであった。    メアリーはそのままベッドに寝そべって、しばらく物思いにふけっていた。ふとしたきっかけで自分の父親のことを思い出したからだ。  気付けばずっと母の形見のペンダントの丸い装飾具を両手で持っていた。父から「眠っている間以外は、このペンダントを必ず肌身離さず身につけるように」と厳命されていたが、そんなことを言われるまでもなくメアリーはそうしていただろう。何せメアリーが物心つく前に母親は他界していたので、このペンダントは母との絆を示す大切な遺品であったからだ。   気が滅入って来たので、メアリーは両親のことを考えるのを止めて、別のことを考える。  こちらの方が喫緊の課題だ。    メアリーは10日ほど前にエミリーから「鈍器愛好会」という集まりに誘われたのだが、何故私を誘ったのだろうか?その理由をメアリーは理解できなかったのだ。    「鈍器」というのは本のことを指す隠語だと思う。  それならば「鈍器愛好会」は本が好きな人間が集まる会合なのだろう。     メアリーが本を読んだことがある人間である、ということに何故エミリーが気付いたのだろうか?その一点について考え続けた。  現在の法律では、本を読むこと、本を所有すること、かつて存在した本に書かれてあった内容について話すことは全てが重罪に当たる行為である。それが分かっているからメアリーは過去に本を読んでいてその内容を覚えていることをずっと隠し続けてきた。    件の「鈍器愛好会」は十中八九、隠れて活動している非合法組織に違いない。  誘いを断っているはずだったのに、エミリーと話しているうちにいつの間にかメアリーは次の会合に参加することになっていた。      メアリーにとってせめてもの救いだったのは、かつてのこの国の女性たちのようにパーティーで如何に自らを飾り立てるかについて悩む必要がないことであった。    メアリーの部屋のクローゼットには政府職員であることを示す灰色の制服しかないので、「鈍器愛好会」に参加する時にもその服を着て行くしかないのだ。    そんな折、遠くから22時を示すサイレンが聞こえてきたので、メアリーは部屋の明かりを消して、掛け布団を肩まで掛けて眠りについた。     (3)4月15日    8時15分に教育局総務課へ来訪者があった。 「すみません。教育局の設備や備品を使用する手続きをお願いします」 と尋ねる声にメアリーは聞き覚えがなかった。    メアリーが席を立って対応すると、窓口にはメアリーと同年代の黒髪の女性がいた。  灰色の制服を着ており、身分証を提示していた。  そこには「科学局啓発課:エミリー・B」とあった。    この女性が科学局の役人であることは事実である。  疑問に思ったメアリーが 「科学局の方が教育局で業務をされるのですね」 と確認すると、エミリーは 「はい。未来を見据えて科学分野の教育に力を入れようというのが上層部の方針で、そのために私はこちらに出向して来ました」 と答えた。    メアリーは念のため人事課に電話をした。そして 「確認が取れました。それでは専用の端末を使って手続きしていただきますので、ご案内します。こちらへどうぞ」 と言って、エミリーを同じフロアの別室まで案内した。    メアリーはその部屋の入り口にあるセンサーに自分の網膜と指紋を認識させて解錠した。  ドアノブを回してドアを押して中に入ろうとしたがドアが全く動かない。    メアリーは思わず 「1インチも動かない」 とこぼした。  これはメアリーの父親の口癖で、近年は立て付けの悪い建物や質の悪い家具が増えたので、不具合が生じた際にいつもそう言っていたからついついメアリーも同じ言葉を口にするようになったのだ。    メアリーは 「すみません。このドアは不具合が多くて。施設課の者を呼びますのでしばらくお待ちいただけますか?」 と詫びた。それに対して、エミリーはにこやかに微笑んで 「あなたとは良いお友達になれそうだわ」 と嬉しそうに答えた。     (2)4月5日    メアリーが定時で仕事を切り上げて、満員電車に揺られ、ようやく帰宅したのは21時30分を少し回った時刻であった。  玄関を解錠してドアを押し開いた時にそのスムーズさに違和感を覚えた。いつもはドアを押すとギーギーと音を立てながらなんとか体を滑り込ませるだけの隙間を作って部屋に入るからだ。  きっと体格の良い男性でも入れるように何らかの工作がされたのだろう。 「またか」 とメアリーは落胆した。    玄関の壁にあるスイッチを操作して部屋の明かりをつける。    見渡す限り大きな変化はない。  ワンルームの自室にあるのは粗末なベッドとクローゼット、冷蔵庫とあまり効かないエアコンくらいのものだ。  贅沢品や通信機器やコンピュータの所有は禁じられている。洋服も職種に合わせた色の制服だけで、靴や靴下や下着も支給されたものだけである。    ベッドに目をやった瞬間、メアリーは自分の予想が正しかったと確信した。  メアリーは習慣として、毎朝その時にひらめいた絵柄を掛け布団のしわで描くようにしていた。今朝はアルファベットの「M」だった。だが、掛け布団は違う様子に変わっていた。    続けてメアリーはユニットバスを確認する。  当然ながらこの部屋は盗聴されているはずなので、まずはシャワーから水を出して大きな音を立ててから、ざっと全体を観察する。特に問題はなさそうだ。  最後にトイレのウォータータンクの上部を静かにずらしてタンクの中を見る。案の定、ビニール袋に入れて浮かべておいたプラスチック片はなくなっていた。  このプラスチック片は侵入者の有無を確認するために、最初から没収されることを前提にしたデコイだから、全く価値のないものである。  その代わり、メアリーは自分が今でも監視対象であることを知ることが出来た。その意味することは大きい。        メアリーはかつて郊外の一軒家に父親のジェフリーとふたりで住んでいた。  その家にはたくさんの本があった。とても幸せだった。  しかし、メアリーが10歳の時、保安警察が家にやって来て父を逮捕し、家にあった全ての本を回収した。家の中に本を隠しておく場所がないかを探すために家のあちこちが破壊された。    保安警察に連行される際にもジェフリーは何も言わなかった。  ジェフリーは黙ったままメアリーの目をじっと見つめて、言外に「任せたぞ」と託していた。    自分が逮捕されることを予想していたジェフリーはメアリーにペンダントを渡した。それがメアリーの母親の形見であること、そしてそれ以上にそのペンダントトップにはこの国の人が失ってはならない思想を収めたジョン・ロックの「統治二論」という本についての重要な情報が収められていること、メアリーの身に危険が及ぶまでは常に身につけて守って欲しいこと、なども伝えられた。それ以降、ジェフリーは少しずつメアリーに自分の身を守る術を教え込まれた。      保安警察に捕まった父は帰って来ることはなく、メアリーはジェフリーの逮捕時に随行していた厚生局の職員に保護されて、その職員の計らいで自宅から遠く離れた土地に住む夫婦へ養子に出され、新しい両親から愛情豊かに養育された。一国民として必要な教育を受けた。その上、幸いに成績が優秀だったため公費で高等教育を受けることも出来た。教育カリキュラムを終了する際に政府が行う適性試験を受け、その結果を受けて教育局で働くことになった。    父が逮捕されてから随分と時間が経った。メアリー自身は何の問題も起こさず、今では政府機関で働いている。  そこまで恭順の姿勢を貫いているのに自分は依然として監視対象であるのだ、と再認識してメアリーは肩を落とした。     (1)1月5日    保安警察の建物は他の官庁とは離れた場所にある。    そのビルの8階の市民警護課の第一係長室に、保安警察の警察官であることを示す白い制服を着た赤毛の男がやって来て、ドアに据え付けられている装置で網膜と手掌の血管を認証し。最後に解錠コードを入力して、ドアを開けて一礼してから室内に入る。  ドアを閉めてから、赤毛の男は 「市民生活課のキャロル巡査部長です」 と挨拶し、敬礼した。    室内には大きな木製のデスクがあるが、既に部屋の主である短く刈り上げた金髪の男は席を立って 「早速だが、本題に入ろう」 と話を進める。  金髪の男は自分のデスクの椅子に座り、キャロルはデスクの前で直立していた。   「キャロル巡査部長、単刀直入に言おう。今回の君の任務はある女性の拉致と尋問だ。出来るかね」 そう上官から尋ねられたキャロルは 「はい。スミス警部補の、いいえ、保安警察のためでしたら如何なる命令に従います」 と答えた。  それを聞いてスミスは大きく頷いて 「よろしい。10年以上前の話になるが、まだ保安警察が今のように強い権力を持つ前にひとりの危険分子を逮捕し、その男の所有する本を全て没収した。だが、保安警察が入手していた情報にあった『最も忌むべき禁書』が見つからなかったのだ。その男は獄中死したので、その本のありかを知っていると思われるのは、その男の娘だけだ」 とそこまで話して、1枚の書類をキャロルに渡した。    キャロルはその書類に目を通してから 「今は教育局で働いているのですね。これはワザとでしょうか?」 と尋ねたが、フフッと笑うだけでスミスはそれには答えず 「実はこの捜査は既に始まっている。キャロル巡査部長の協力者はいずれ教育局へ潜入することになっている。君はその協力者経由でその娘に近づいてくれればいい」 と先を続けた。    キャロルが 「分かりました」 と答えると、スミスは内線電話をかけて 「私だ。アレは用意できているか?ああ、今から私の部屋へ持って来てくれ」 と指示を出した。  電話を切るとキャロルに 「今回は備品課の協力も得ている」 と伝えた。    備品課の担当者が届くまでまだしばらくかかるので、スミスは任務の説明を続ける。 「キャロル巡査部長には今回、エンジニアという身分で活動してもらう。明日から専門家による教育カリキュラムが始まる。時間はそんなにない。心してく準備するように」  そして、1枚の書類を渡した。 「これがロボット・エンジニアとしての君の経歴だ」    キャロルは自身の偽の履歴書を一瞥して 「はい。承知いたしました」 と即座に答えた。    その時、ドアの認証手続きを経て、白い制服を着た備品課の男性がレストランで料理を運ぶのに使うようなワゴンを押してながらスミスの執務室へ入って来た。ワゴンの上に白いドーム型のカバーがかぶせてあった。    そのカバーを取り去って用意した備品を示すと、備品課の職員は説明をする。 「今回、用意したのはこちらの備品です」 と3つの品を提示した。そして説明を加える。 「まず、黄色の制服ですが、これは政府から技術者へ支給されているものとは違い、防弾仕様の生地で出来ていて、中に通信機器がついています。ふたつ目は黄色い鞄です。これらふたつの使用法については後ほど私が説明します。最後に、3つ目ですが、これは我々の社会にはあってはならないものを模した強化プラスティック製のケースです。実際はケースですから、もちろん中身も入っています。どうぞ確認して下さい」    キャロルは、四角い物体を恐る恐る手に取ると 「意外と重いです」 と感想を述べ、表紙を模した箇所が蓋になっていたのに気付いて開く。キャロルは 「あっ!」 と驚きの声を上げた。    本の形をしたケースの中には、拳銃が入っていたのだ。  ケースの内部が精密に加工されており、その拳銃はぴったり収まっていた。       (了)  
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