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「透さん、体調は大丈夫ですか?」  そうして覗きこまれ、すぐ傍に見える濁りない眼差しは普段より熱っぽく潤んで見えた。 「……」 「こんな雨の日は、貴方はいつも浮かない顔をしてた。今日もそうだったから」 「っ!」  思いがけぬほど一途にひたと見つめられてしまい、ぐっと透は口ごもる。 (気になることって……、僕のことだったのか) 「体調は大丈夫だから」 「体調は、大丈夫」 「……揚げ足を取らないで」 「でも、貴方は泣いてた」  やはり先程泣いていたと勘づかれていたのだ。 「……ちがっ」 「じゃあ、どうして泣いてたんですか?」 「これは……」  節高の男らしい指先で頬に触れられ、一途に輝く綺麗な瞳にじっと見つめられると、どうしていいか分からなくなる。透は目を逸らさざるを得なかった。 「別れた恋人が忘れられないんですか?」  まさに先程まで透をお決まりの哀しみに落とし込んでいた記憶を突かれ、透は誤魔化すことも出来ずにビクッと薄い肩を震わせる。 「どうしてそのこと。……叔父さんだな」 「見崎さんのことをどうか怒らないでください。こんな天気の日には貴方はいつもどこか浮かない顔をしていた。貴方のことが知りたくて。気になって仕方がないから俺がしつこく聞き出したからです」  当惑して一歩下がった透を逃さないとばかりに一歩詰め寄られる。彼はかがみ気味になって片手を透の腰に手をかけ、そのまま勢いを殺さずに透を腕の中へ抱き寄せた来た。 「俺、透さんのことが、好きなんです」 「す、きって……」  五つも年下の学生から告げられる愛の言葉はあまりにも真っすぐで、こんな寒い晩に一人きりで凍え固まっていた心はその炎のような熱さにいともたやすく溶かされかき混ぜられる。 「冗談やめて、よ」 「冗談で片付けないで。ずっと、貴方のことが好きでした。どうか、俺の恋人になってください」  彼の腕の中、重ねられる告白に、年上としての矜持などすぐにどこかに吹き飛んでしまった。 「君ってさ、もっとなんかこう、色々策を巡らすタイプなのかと思った。じつはすごく直球勝負にくるんだね」 「その方が透さんには届くと思って」  寒さで顔色が蒼白なくせに、にやりと笑う顔はやんちゃ坊主の様で透に元気をくれた。 (その作戦は当たってる。寂しい男の胸に完全に刺さってるよ、伏見君)  言葉が上手く紡げない。幼子のようにむぐむぐと唇を動かした。色気の匂い立つ顔つきで屈んだ彼の唇を寄せられる気配に、再び頬の近くに充てられた手をやんわりと振り払う。伏見は深追いはせず、怒られた仔犬のように少しだけしゅんとして大人しくその手を離した。 (ぐいぐいくるようで、しゅんっとか可愛すぎるでしょ)
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