ピーマンの肉詰め

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 今日も疲れた。  仕事が終わって、ご飯を食べて、後片付けをして、寝る。  毎日が、感情のない機械のように過ぎていく。  がちゃん。  「……取れちゃった」  引っ張った拍子に、食器棚の取っ手がぶらんと片方だけがついている状態で、カランカランと止めていたネジの音がむなしく響く。  一人暮らしを始めるときに買った食器棚。  これからの未来が楽しみで仕方がなかった。  ミキはネジを拾った。  ぶらんとした取っ手を、ネジで止めないと。  戻さないと使えない。    それなのに。  視界は曇ってくる。  ぼやっとした視界のなか、ネジを握りしめる。  ぶらんとしている壊れかけの取っ手が、どうしようもなく自分のように思えてしまった。  いよいよ、頭がおかしくなったのだろうか。  そんなミキの気持ちとは裏腹に、視界の曇りはどんどん増していく。  あぁ。  なにやっているんだろう。  この10年間、なにをやっていたのだろう。  永遠と続くんじゃないかと思われる上司からの圧力。  漠然とした将来への不安。  なぜ、こんなに生きづらいのだろう。  どうしてうまくいかないのだろう。  なにを目標に生きていけばいいのだろう。  ぶらんとしている取っ手さえも、自分を責めているように感じた。    ぴこん。  『今度いつ帰ってくるの?次くるときは、あんたの好きなピーマンの肉詰め作るから、日にち決まったら連絡ちょうだい』  母からのラインが届く。  ぼやっとした視界が、涙によってはじかれる。  冷たく頬を伝っている涙が、くすぐったい。  ねぇ、お母さん。  この道は、軌道修正できるかな。
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