アリスと青い薔薇

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 エルネスと私が出会ったのは、二年前ーー高校一年の時だった。天然で優しい性格の彼女は友達が多く、少し柄の悪い生徒たちとも壁を作らずに親しく話していた。  彼女に声をかけてみたい気持ちがなかったわけではないが、席も離れていたし、接点を持つことはないだろうと思っていた。第一に私は、進んでクラスメイトと交わるタイプではなかった。休み時間は読書をし、放課後は真っ直ぐ家に帰り、部屋で一人、美術商の父が遠い国から買ってきた美しい宝石や小物を眺めながら、クラシックを聴いて過ごした。  他の子どもたちと打ち解けられなかった理由の一つに、私の独自の趣味もあったのだと思う。幼い頃から私は、他の女の子たちが好むピンクや白の可愛らしい服よりも、黒いゴシック調のワンピースを着るのが好きだった。黒真珠が真ん中についた、同色のビーズで覆われたレースのチョーカーを首にかけ、暗い紫色の網タイツを履いた私を周りの人たちは奇異な目で見て遠ざけた。髪型もツインテールにしたり、アイロンで髪の先をカールさせたり、とにかくこだわり通りにいかないと気が済まなかった。裏に薔薇の紋様の彫られた鏡を持ち歩き、授業で使用するのも鉛筆ではなく万年筆だった。  当の私は周りに合わせるという概念などなく、自分が美しいと思うものにしか興味がなかった。私の趣味を理解できない人々に迎合するより、自分だけの世界に閉じこもることに幸せを感じていた。  そんなある日、学校の講堂で映画の上映会が開かれた。その日上映されたのは、全くつまらないSF映画だった。中盤、遅れてやってきたエルネスが私の隣に座った。一度も話したことがないにも関わらず彼女は私に笑いかけ、「上映会のことすっかり忘れて、庭で寝てたの」と言った。普段クラスメイトと話し慣れていない私はどう反応したらよいかわからず、とりあえず無言で笑顔を作った。エルネスは私の手首についた、ビロードの青い薔薇のコサージュのついた真鍮の腕輪に目をやった。 「そのブレスレット、すごく可愛いね」 「ありがとう」  滅多に褒められたことのない持ち物についてポジティブな感想をもらって、嫌な気はしなかった。 「青い薔薇の花言葉って、知ってる?」  何故私はここで彼女にこれを聞いたのだろう。ただ話題がないから、慰みに聞いたのだったか。エルネスは一瞬だけ首を傾げたあとで、「一つだけ知ってるよ」と答えた。  彼女の次の台詞に、スクリーンの女優の叫び声が重なった。それでも私は、彼女の口の動きから何を言ったか読み取ることができた。
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