アリスと青い薔薇

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 その日を境に、私たちは仲良くなった。彼女は自分の名前がブランドの名前と似ていることから、よく間違われるのだと言った。 「ママに前、どうしてエルメスって名前にしてくれなかったの? って聞いたら、ママってば『だって、もし名前負けしたら嫌でしょう?』なんて言うのよ」    エルネスの話にはいつも笑わされた。彼女はひょうきんで、おっとりとした口調で話し、携帯を溝に落としたり、自転車で田んぼに突っ込んだりというドジをしていた。その割に、いじめられている仲間を見過ごすことができない正義感を備えていて、いじめっこたちを頭突きで懲らしめた。  私と彼女はお互いの家を行き来して遊んだ。『ゲームオブ・スローンズ』というドラマが好きな彼女は、私の家を「スターク家のお屋敷みたいでかっこいいね」と褒めちぎり、私の部屋にあるコレクションの宝石やアクセサリーに目を輝かせた。 「アリスはすごくセンスがいいよね、羨ましい」  エルネスは、とりわけ懐中時計を気に入ったようだった。盤面に絵画のようなデザインーー焚き火を囲みながら歌を歌う聖歌隊の少年たちと、指揮をしている男性の絵が描かれたそれは、父がイギリスから買ってきた珍しい代物だった。 「あげるわ」  エルネスがあまりに長い時間懐中時計に魅入っているものだから、私はそれをプレゼントすることにした。エルネスは「そんな、悪いよ」と首を振ったけれど、彼女にあげるなら惜しくなかった。何より他の誰でもない、ほかに友達もいない、一緒にいても何のメリットないような私の隣にいてくれる彼女にこそ受け取って欲しかったのだ。 「いいの、あなたが持っていて。何かの時に役に立つかもしれないから」 「ありがとう、アリス。大切にするね」  エルネスは手に持った懐中時計を大切そうに両手で包み、微笑んだ。
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