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結婚の話が出たのは、今から三ヶ月前のことだった。父と旧知の仲である男性の従弟が嫁を募集しているとかで、男性の家で三人で飲んだ際私の写真を見せたところ、一目会いたいと言ったのだという。彼は彫刻家をやっていたが間も無く出兵予定のために、どうしても今お見合いをして欲しいのだという。
「パパ、私はまだ結婚なんて考えられない」
私はまだ十七歳だ。クラスメイトの中には卒業を待たずして結婚した者も数名いたが、彼女らと同じ覚悟ーー戦地に向かう男性と籍を入れ、彼の帰りを待つような忍耐強さがあるとは思えなかった。何よりも、結婚は私にとって遠い世界の話のようで現実感が薄かったのだ。
「お前がどうしても嫌なら無理は言わない。だが、彼はとても良い人だよ。会うだけ会ってみないか?」
父の頼みを断りきれず、私は男性と会うことになった。前の晩、妹のクローバーは私に言った。
「お姉ちゃん、したくもない結婚なんてすることないわ」
「ただ会うだけよ」
結婚するつもりなど毛頭なかった。明日明後日生きていられるかも分からない状況で、赤の他人のことを考えることなど、この私にできっこなかった。
「私なら、誰に何を言われようと本当に好きな人と結婚する。明日戦争で死ぬかもしれないなら尚更」
「あなたは自由でいいわね」
「お姉ちゃんだって自由よ」
二つ違いの妹は中学の頃から異性交友が激しかった。彼女の部屋は男子たちから送られたカードや、ブランドのバッグやアクセサリー、時計や服などで溢れていた。妹はそれを片っ端からネットオークションで売り捌き、交友費に充てていた。
「お姉ちゃんに幸せになって欲しいって思ってる。いつも思うのよ、自分の感情にだけは正直にいたいって」
妹の言葉は、この時私の心に確かに刻まれていたのだと思う。
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