アリスと青い薔薇

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 翌日、サミュエルとともに妹を探した。手がかりがないまま夕方戻ってくると、クローバーは一人、焼け落ちた家の瓦礫の前に呆然と立っていた。私の姿を見るなり、彼女は安堵の表情を浮かべ涙を流した。私たちは互いを強く抱きしめた。妹の口からは嗚咽とともに、言葉にならない音が漏れ出していた。  私たちはその後両親を探しに隣町へと向かったが、伯父の家は跡形もなかった。  二週間ほど、空襲に怯えながら地下で過ごした。使用人たちには早いうちに暇を出し、家族のもとに戻るようにと言った。だがサミュエルは一人だけ私たちのもとにとどまった。そしてついに両親と再会することがないまま、私と妹は隣国に亡命することとなった。  出発の日、サミュエルは突然私たちに身支度をするようにと声をかけて、自分の友人の家に連れて行った。口髭を蓄えた初老の男は、私たちを家の地下に案内した。その光景を見て唖然とした。なんとそこには鉄道が走り、線路が遥か彼方に伸びていた。  三〇分ほどして、列車がやってきた。 「お元気で」  サミュエルは目に涙を溜め、私たちに別れを告げた。私とクローバーは彼に何度もこれまでのお礼を言い、運転手に促されるまま列車に乗った。
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