アリスと青い薔薇

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 窓の外では、黒い雨が降り続いている。    爆撃機の飛び去る音と爆発音、人々の叫び声に耳を塞いだ。 「お嬢様、こちらへ!」  執事のサミュエルに連れられ、私は数人の召使いたちとともに地下シェルターに逃げ込んだ。これは、10年ほど前にこのクルムト共和国と隣国シュラドが、我が国の鉱物資源を巡って一触即発の空気になった直後、父が地下貯蔵庫の半分を改修して作ったものだった。ボタン式の防御扉が開き、天井と壁が40センチほどの硬いコンクリートで覆われた殺風景な部屋に入る。部屋の隅にはピアノが置かれている。防音の部屋は演奏に最適なので、よくここで一人ピアノを弾いたものだった。  使用人たちは、不安げに小声で語り合っている。両親は隣町にある親戚の家で不幸があって出掛けていたが、無事に逃げただろうか。奔放な性格の妹は、空襲があるかもしれないから家にいろと皆に止められたにもかかわらず、今日も男友達の家に行くと午前中に家を出た。彼女はちゃんと安全な場所に避難しているだろうか。その男友達が、彼女を置いて逃げるような薄情者でなければいいがーー。  不意に、私は右手首に嵌められた真鍮のブレスレットに埋め込まれた、ビロードでできた青い薔薇の飾りを見つめた。  何より気掛かりなのは、友人のことーー私のたった一人の親友であるエルネスのことだった。半年前に空軍に志願した彼女は現在、戦線の真っ只中にいる。本当は心配でならなかった。最後に手紙が来たのは、二週間前だった。彼女が怪我をしていないか、無事生きているか気がかりだった。  
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