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序章 (プロローグ)
重い、目を開ける。
ぼやけた視界が、徐々に鮮明になってくる。
その視界に、一人の少女が目に入る。
それを見た僕は、思わず息を呑んだ。
その少女は、子供のような背格好をしていた。いや、本当に子供なのだろう。だから、子供のような、ひどく儚げな雰囲気を纏っている。何より彼女は、僕が今まで見たことがないほどに美しかった。
「お、目覚めた?」
そう言うと、彼女は嬉しそうに笑った。
その微笑みは、どんな魔法よりも破壊力があった。
何よりも美しくて、一生守ってあげたいと思うほどに儚げで。
だけど、その顔は僕の記憶の一部を呼び起こさせた。
何だろう、なんだか、悲しいことがあったような……。
「…っ、ぁ…」
これを走馬灯、と言うのだろうか。
四人の見知らぬ男女が、様々な死に方をしている姿が思い浮かぶ。
哀れな彼らは、みんな揃って目に穴が開くほどに自分を見つめていた。
ーーその顔は、みんな揃って『逃げて』と言っていた。
そして、最後には凄絶に笑う、小さな少女の顔。
「っ‼︎」
僕はすぐさま横に跳び退き、少女と距離を取る。
少女は、首を傾げて聞いてきた。
「どしたの?意識が戻ったばかりで私がGに見えたとか?」
ーー的外れにも程がある。
それが、強者の余裕、か。
僕は、どうしても乗り越えられない高すぎる壁を前にして、歯が壊れるほどに歯軋りする。
僕はその少女をきつく睨んだ。
少女はしばらく不思議そうにしていたが、合点がいったような顔をした。
「あー、なるほど。さすが勇者、といったところかな」
「勇、者…?」
全てを、思い出す。
今まで積み上げてきた年月が、脳裏に思い浮かぶ。
「おれは、勇者…」
少女は、ウインクした。
「じゃあねー、勇者さん?」
指をパチンと鳴らす。
意識が暗転する。
ああ、僕はまたー。
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