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「ねえ、野崎さん。いつもどんな本読んでるの?」
昼休み、お弁当を食べ終えて本を読んでいるとそんな声が聞こえてきた。
顔を上げるとこの四月に同じクラスになったばかりの、えっと――喜田君があどけない顔に興味津々といった顔を私に向けている。
面倒くさいな、というのが一番に浮かび上がってきた正直な思いだった。
「別に」
高校生活も一年以上過ぎて、ようやく根暗な文学少女という立ち位置を積み上げることができた。そのおかげで昼休みにこうやって堂々と本を読んでも誰も私のことを気にせず、誰からも邪魔されないようになったのに、クラス替えでまたやり直しとなってしまった。クラス替えから一ヶ月、声をかけられるのはこれで3度目だ。
ただ私は静かに本を読んでいたいだけなのに。図書室に行くということも考えたけど、その移動時間がもったいなかったし、図書室に自分の本を持っていくのもちょっと気が引けた。
「俺も本読むの好きだからさ。もし面白い本があれば教えてほしくて」
私の拒絶にめげる事無く、喜田君はニコニコしている。その顔や学ランの隙間から覗く手はしっかりと日焼けしていて、どう見ても体育会系の見た目だった。
こういうことは初めてではない。忌々しいことに私の容姿はそこまで悪くないらしく、本を誘い文句に声をかけられることが少なからずあった。けれど彼らの本の知識は押しなべて浅く、私を落胆しかさせなかった。
数少ない友達によれば、私は“男子慣れしてなくてチョロそうに見える”らしい。ああ、本当に忌々しい。
「私が読んだことなくて面白いと思える本を教えてくれたら、私もおすすめを教えてあげる」
結局、言い寄ってくる男子には全てそう返すようにしていた。そうすれば男子は一旦了承するけど、二度と話しかけてこないか月並みな本を紹介してきて、「読んだことある」の一言ですっぱりと話を終わらせられる。
「野崎さんが好きそうなものね。わかった、明日持ってくるよ」
喜田君は臆することなく笑顔のままそう答えると、鼻歌でも歌うように自分の友達のグループの方へと戻っていった。
大丈夫、どうせ月並みな人気作を持ってくるくらいしかできない。だけど、これまでにはない自信満々な声に少しだけ胸がざわついた。
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