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時刻の針は26時を回っている。
ようやく読み終えたばかりの小説を閉じると、胸の奥からジワジワと湧き上がってくる充実感と、ヤラレタという悔しさに同時に包まれた。一気に読み終えた気持ちのいい脱力感に身を任せてベッドに身を投げる。
話しかけられた翌日、喜田君から渡されたのら与野九夜という作家の「死神の輪廻」という作品だった。
与野九夜は2年程前にデビューした作家で名前は聞いたことがあったけど、作品は一つも読んだことがなかった。レーベルの傾向的にキャラクター重視のイメージがあって好みじゃないと思っていたけど、とんだ食わず嫌いだった。
情景描写と心理描写の深み、バランス。メリハリのあるストーリー。作品の全てが私の好みのど真ん中を捉えていた。キリのいいところまで読むつもりが、手が止まらなくなって一気に最後まで読んでしまった。
この作品に自分で気付けなかったのが悔しい。その悔しさを埋めるように寝ころんだまま改めて本を開き、ラストシーンからエピローグ、解説まで刻み込むように読み直す。
「あ、これ……」
奥付を開くと、著者名や発行者の書かれたページの隙間に一言「最高だろ?」とボールペンの文字が書かれていた。
二度目のヤラレタという想いに思わず天井を見上げる。
本に直接文字を書き込むことの是非は置いておいて、その問いかけへの答えは決まっていた。
机の脇に置いていた二つ折りの携帯を開いてみる。そこに登録された人は家族と数人の友達だけど、小説について語れるような人はいない。
もし喜田君とならこんなとき、メールを送って感想を交わしたりできるのかな。ニコニコと笑顔を浮かべる喜田君の顔が思い浮かんで、ぼんやりと小説の間に顔をうずめる。
――明日、どの本持っていこう?
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