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『与野九夜さんの新作読んだ?』
『もちろん。続編ってのもあるけど、与野九夜の良さがギュッと濃縮されててスゴイよかった』
自分の部屋のベッドに寝転がりながら喜田君から送られてきたメールを返しつつ、枕元に並べた二冊の本を見比べる。一冊は喜田君と話題にしていた与野九夜の新作『輪廻の輪舞』で、もう一冊は一年前に喜田君から貸してもらった『死神の輪廻』だ。一年前に借りてから何となく借りっぱなしになっていた『死神の輪廻』だけど、今回の与野九夜の新作はその続編ということで改めて読み返していた。
『受験勉強が本格化したら読む時間も削らなきゃいけないし、今のうちに読み溜めておかないとな』
『うーん、喜田君は読む時間削るのかなあ?』
喜田君とはあれから本を通じたやり取りがずっと続いていた。喜田君はハンドボール部で放課後や土日も部活に参加しているから、直接話をするのは昼休みくらいで、あとは殆どメールだった。それでも――むしろ文字だからこそ、自分と同じ熱量で本を読む人と言葉を交わせるのは楽しくて仕方なかった。
『そのつもり。あ、そうだ。今のうちに読み倒すために買い出しに行きたくて。湘南の方に色々な本が置いてある古本屋があるらしくてさ、ここからだと一日がかりになるけど、春休みになったら行ってみない?』
そのメールにドキリと胸が跳ねる。前にもちょっと遠くの古書店まで喜田君と出かけたことはある。湘南までだったらちょっとした小旅行だし、本の話をしながらの行程はきっと楽しいだろう。
だからこそ、高鳴る胸がズキリと痛む。その小旅行に私は行くことができない。
『ごめん、喜田君。私、3学期が終わったら転校するんだ』
『えっ』
『だからね、1つお願いがあるの』
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