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「予想はしてたけど、やっぱすごい数あるなあ」
私の部屋に来た喜田君は本棚を見て感心したように声をあげる。
喜田君に転校のことを告げた次の週末、とあるお願いの為に喜田君に部屋に来てもらっていた。
そういえば部屋に家族以外の人が入るのなんて何年振りかもわからなくて、今更ちょっと緊張してくる。
喜田君を部屋に通すとき、お母さんが意味深な笑顔を浮かべてきたけど、別に私と喜田君はそういうのじゃない、はず。
「高校生でも転校ってあるんだ」
「お父さんの転勤でね。私だけ残ろうとも思ったんだけど、生活力ないからダメって」
「なるほど」
喜田君は悩むことなく頷く。そこはもう少し悩んだり否定してくれてもいいんじゃないかと思うけど、実際生活力なんて微塵も持ち合わせていないのは確かだから、小さく頬を膨らませるだけに留める。どっちみち喜田君は本棚に興味津々で私の様子に気づきそうはない。
「お母さんからいい機会だから本を整理しろと言われちゃって。だけど、私一人じゃいつまでたっても終わらなくて……」
「整理してる間に読みふけっちゃうやつだ」
「本当に」
それに、引っ越し先に持っていかない本はこちらで売ることになる。一冊一冊に何かしらの思い入れがあって、売る本を選ぶなんてできそうになかった。だから、喜田君に客観的に選んでもらうことにした。さっそく喜田君は本棚の本に手をかけている。だけど、それは仕分け作業へのやる気に満ち溢れてるというよりは。
「俺が同じ穴の狢にハマるっていうのは?」
「却下で。今日中に片付けろって言われてるんだから」
喜田君はちょっと不服そうに息をついて立ち上がり、それから机の上に置いていた本に気づいて手に取った。それは借りたままになっていた『死神の輪廻』。喜田君の手がゆっくりと本の表紙を撫でる。
「懐かしいな、この本」
本をパラパラと捲って、喜田君自身の文字が書き込まれた奥付のところで手を止めると懐かしそうに目を細める。
「ずっと借りっぱなしだったから、今日返さないとって」
「いや、これは野崎さんが持っててよ」
喜田くんは『死神の輪廻』を引っ越し先に持っていく用の段ボールに収めた。
「野崎さんがこれを持っててくれたら、野崎さんと繋がってるってことを実感できると思うから」
「そんなことしなくても、いつでも連絡できるのに」
「こういうのは巡り合わせみたいなものだからさ。これはまたいつか返してもらうよ」
照れくさそうにそう言って、また喜田君はニコニコと笑う。
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