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引っ越しには喜田君が見送りに来てくれたけど、それ以外は何事もなく終わった。
新居となるマンションに荷物が運び込まれて、まず開けたのは本が入ってると思われる段ボール。
「あれ?」
確かにその段ボールには本が入っていたのだけど、上に並んでいる本を見て違和感を覚える。これは喜田君と仕分けたうちの売る方の本じゃないだろうか。
仕分けた本は自分で売りに行くのがどうしてもできなくて、親に売りに行ってもらったのだけど、嫌な予感が首筋にまとわりつく。
慌てて本をかきだしていくけど、そうすればそうするほど嫌な予感が現実へと近づいてくる。
ここに入っている本が売る用に仕分けた本だというのはもうわかっている。だけどせめて間違いがあってほしいと願っていた。
「ないっ……」
改めて箱から出した本を全部眺めてみるけど、それは全部売る側に仕分けた本だった。
ぽっかりと空いた喪失感に包まれて、慌てて携帯電話を手にする。震える指で電話帳の一番上に出てくるように設定している登録先に電話をかけた。
『あ、もしもし野崎さん。もう引っ越し終わったの?』
「無いのっ! 『死神の輪廻』が無いっ!」
『え、ちょっ、野崎さん? 落ち着いて……』
電話越しの喜多君になだめられても全然落ち着くことはできなかったけど、しどろもどろになりながら引っ越し先に持っていくはずだった本を間違えて売ってしまったことを伝える。
こんなことになるなら、売る時にどんな寂しい思いをしてでも自分で売りに行くべきだった。そうすれば取り違えに気づけたはずだった。
そもそも、やっぱり喜田君に返していればよかったのかもしれない。頭の中がグルグルとする中で落ち着いた喜田君の声が聞こえてくる。
『本を売ったのは駅前の中古本店?』
「うん」
『俺、今から見に行ってくる。もしかしたらちょうど売ってるかも』
「うんっ、お願い」
喜田君が電話を切って、私は祈るように携帯電話を両手で握りしめる。
別に『死神の輪廻』自体は今でも本屋に行けばすぐに買える本だけど、私たちにとって大事なのは『最高だろ?』という文字が書き込まれた『死神の輪廻』だ。
けれど、次にかかってきた電話から聞こえたのは『もう売れてた』という喜田君の声だった。
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