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昼休みになると俺はすぐさまイヤホンを装着し、校舎裏に移動した。成宮の声を聞きたくなかったからだ。暇さえあればしょっちゅうクラスメイトを笑わせていた以前の俺からすると、信じられない状況だろう。音量を上げて弁当の風呂敷を広げようとした、その時──
「小山くん?」
耳元で声がして、俺は勢いよく顔を上げた。やっと誰か話しかけてくれたんだ。しかし、淡い期待はすぐに裏切られることになる。声の主は成宮だった。呆然とする俺を気にも留めず、ずっと話してみたかったんだ、と奴は続けた。
「ねえ、なに聴いてたの?」
小首を傾げると、茶色みを帯びたストレートの直毛が目にかかった。
「なんで髪の毛そんなサラサラなん……」
「ええ!? 僕は小山くんのパーマ憧れるけどなあ」
「これ天パやで。まあ美容院代浮いてええけど」
「うそ、カットのお金払ってないんだ?」
「パーマの話や!」
くそ、思わずツッコんでしまった。コイツとは一生口を利くまいと心に決めていたのに。
俺の後悔とは裏腹に、成宮は目尻に皺を寄せた。くっきり二重の目は、笑っても俺の二倍くらいある。
「小山くん、やっぱり面白い。僕小山くんと仲良くなりたいんだ。修斗くんって呼んでもいい?」
小山 修斗。爽やかで似つかわしくない俺の名だ。母親はサッカー好きの快活な少年に育ってほしかったらしい。だからシュート。まさかお笑いラジオばかり聴く内向的な人間になるとは思ってもみなかっただろう。
「……マシューにして」
あだ名は自分でつけた。こやましゅうとでマシュー。我ながら気に入っている。仲良くなるきっかけとして、あだ名は非常に有効な手段だ。
「良い響きだね。よろしくマシュー!」
成宮が差し出した手をとることなく、俺は曖昧な頷きだけ返した。
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