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 先日の出来事を経て成宮との距離が縮まったかと言われると、そんなことはなかった。これまでは俺のトークに腹を抱えていたクラスメイトが成宮のもとへ集う光景に耐え切れず、昼休みは校舎裏や駐輪場脇のベンチ、屋上へ繋がる階段に逃げ込んだ。 「マシュー、ここにいたんだね」  だが、どこに逃げても成宮は俺を見つける。息が上がっているので、手当たり次第探しているのかもしれない。 「他のみんなと話したらいいやん、いつも楽しそうやし」 「僕はマシューと話したいんだよ。君が一番面白いからね」  嘘つけ。心にもないことを。  俺が返事をしないでいると、「ところで何聴いてるのさ」と成宮が携帯電話を覗き込んできた。シャンプーの種類を特定できる近さだ。コイツは距離感というものを知らないのだろうか。 「ねじ田うずまきさんのラジオ。どうせ知らんやろうけど」 「え、うずまきさん!? 僕も大好き!」  信じられない。ねじ田さんは間違いなくどの芸人よりも面白いが、決してメジャーな存在ではない。この学校で知っているのは俺以外いないと思っていた。  ラジオの放送は平日ど真ん中、水曜深夜三時にもかかわらず、成宮はリアルタイム勢らしい。動画配信アプリで無料で聴くこともできるのに。更に、ファンクラブ会員しか購入できないライブDVDまで持っていた。いけ好かないが、れっきとしたねじ田ファンであることは認めざるを得ない。俺も負けじと何度かラジオではがきを取り上げられたことを伝えると、成宮は驚いた顔をしていた。
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