夢奈ちゃん

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夢奈ちゃん

 なんで生きてるのだろう。そんな考えが頭をよぎる。生まれてからずっと独りだった。家族からは邪魔者扱いを受け、友達もいない。仲間なんていなかった。  生まれてからある病気に悩まされていた。「小児がん。」私の人生を狂わせた病気。病院で生まれて一度も外に出たことはない。窓の外では子供達が楽しそうに遊んでいる声が聞こえてくる。そんな声を聞くたびに嫌になる。室内で積み木やトランプで遊んでいた日々。そんなある日、同じ病気を持つ友達ができた。夢奈(ゆめな)ちゃん。私より年上のお姉ちゃんだった。夢奈ちゃんはいつも明るく私に話しかけてくれた。私が注射で泣いている時も、近くで応援してくれている。それだけで安心した。どんな痛みも耐えられた。私は8才になって初めて外に出た。夢奈ちゃんと一緒に。初めて吸う空気、風の匂い、全てが新しかった。楽しかった。私の親はいない。私が病気だと知ってどこかに行ってしまった。会いたいけど会えない。私の家族は夢奈ちゃんだけだった。学校に行けない私に夢奈ちゃんは勉強を教えてくれた。先生になるのが夢だったみたい。私に勉強を教えてくれる時、いつもニコニコしていた。夢奈ちゃんならいい先生になれると思った。でも、夢奈ちゃんは14歳の時に病気が悪化したらしい。あまりの苦しさにどんどん元気がなくなっていった。夢奈ちゃんが私の病室に来てくれなくなってから1週間。私は1人で外に出た。初めて1人だった。10分の制限時間が終わり、病院に戻ると、先生がいた。病院の先生は私をある病室に連れて行った。そこにはいつもと違う元気のない夢奈ちゃんがいた。私は話しかけた。早く元気になるように。その日の夜、私は夢奈ちゃんと同じ部屋で寝ることができた。その日の夢に、大きくなった夢奈ちゃんが出てきて、私に勉強を教えてくれた。先生になれた夢奈ちゃんはとても楽しそうだった。これが現実ならいいのに、そう思っていたら、私の隣のベットから声がした。それは小さかったけど夢奈ちゃんの声だった。私は何を言ってるのかわからなかった。声が聞こえなかった。けど、ありがとうという言葉は聞こえた。そのすぐ後に「ピー」という機械の音が聞こえた。私はその音を忘れない。何が起こったのか分からなかったけど、その音は私の夢の中に出てきた夢奈ちゃんをお空に連れて行った。その日の朝、夢奈ちゃんの周りに大人がたくさんいて、泣いている。私もなぜか涙が出てきた。人生初めての涙。それは本物の涙じゃないとすぐに分かった。だって実際に夢奈ちゃんなんて人はいなかったから。なんで生きてるのだろうと思っていたが、私は生きていた感じがなかった。ずっと独りだったのは当たり前。だってずっと寝てたから。誰とも話したことなんてないから。生きていたけど生きていない。ずっと、ずっと、ベットの上、私は生まれてから一度も目を開けたことはない。夢の中の友達、私は夢の中で勝手に作った友達と一緒に今も生きている。私が生まれた病院や、その病院のある町はなんだかとても小さく見える。私の友達は夢奈ちゃん。今もその子と一緒に高い世界で生きている。
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