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何かを決めるのに、或いは何かに対する反応に時間がかかったことはほぼない。
初めに思ったこと、考えたこと、大体それに従うことが自分の中でしっくりくるからだ。
こんなに誰かに時を止められたのは人生初だ。
「…言ってる意味がよくわからないが?」
そう答えると、
「私達は旅をしているんだ。お前も一緒に旅しないか?」
さっきより少し言葉は増えたが、まるで理解不能だ。
「何故だ?」
全てがその一言に尽きる。
すると、
「お前変わってるからな。一緒にいたら絶対楽しいぞ!」
……
「やめといた方がいいぞ。きっと楽しいのはほんの束の間だ」
今までの幾つかの経験が甦る。
他の者とは変わった考えや行動をする自分に興味を持ち寄ってくる奴等も居た。だが、遠くで見てるのと、近くで関わるのとでは話が違うらしく、長くて数週間で離れて行った。中には期待していたものとは違ったと、失望を吐き捨ててった奴も居た。
だが目の前の女は、
「束の間の楽しさは嫌いなのか?」
またしても予想外な言葉が返ってきた。
束の間の楽しさは嫌いなのか?
自分が?
そんなこと考えてみたこともなかった。
勝手に寄って来て、勝手に去って行く。
自分が意図してそうしてないにしろ、そいつらの期待に沿えない自分が、そいつらの時間を奪うことは苦痛でしかなかった。
だがこいつは、まだ始まってもいないのに、いつ終わりになるかもしれないにしろ、楽しまないか?と言っているのだ。
「お前変わってるな。お前のような奴は初めてだ」
最初から永遠を望まず、離れることを畏れていない。
「ああ、よく言われる。だから私と居ると楽しいぞ?それに私は相当運がいい!大抵の事は上手く行くぞ!」
自分とさほど変わらない歳であろうそいつは、まるでこの世界は自分のものになる等と考えている子供が夢を語るように自信に満ち溢れていた。
「ぶはっ」
この歳になってそんな事言う奴居るか?
というか、初めて見かけた知らない奴を旅に誘うような台詞じゃない。
「ふっふっ…お前…くっくっ…ほんとに変わってる…確かにお前と一緒に居たら楽しそうだな」
腹を抱えつつ、必死に笑いを堪えながら答えると、そいつは更に近づき、
「お前、そうしてた方がずっと綺麗だ」
そう言った。
こんな間近で、それも女に、綺麗だなんて言われたのは初めてだ。
そう思って見返したそいつこそ、何処かの教会の壁画にでも出てきそうだった。
「お前、後ろの男は連れなんだろ?勝手に決めていいのか?」
どう見ても、ずっと不機嫌そうな男の表情からそう聞いてみると、
「気にするな。あいつはあれが普通だ。それに本当に嫌になったら離れてくさ」
そう言って笑った。
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