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「何だよ、俺のほうが早いだろ。どこ見てるんだよ。割り込みだろ。」
いらついた顔で怒鳴った男は大きな体を小さな車いすに押し込め、窮屈そうだ。
心の中で、
(何もそんな言い方をしなくても・・・)
整形外科の受付をしている私は、目の前からやってくる長身の人に目を向けていたので、車いすの男には気が付かなかった。
その場にいた人たちからの視線を感じながら軽く頭を下げながら静かに言った。
「すみませんでした。」
男はなおも、
「気をつけろよ。」
とまた怒鳴りながら待合室の方に戻った。
(こんな人には二度と会いたくはないものだわ)
仕事が終わり、夕暮れの商店街で買い物をしていた。
(う・・・)
言葉にならない声が出た。
少し前にいるいつもなら気にしていない車いすの人を見ると、先ほど私にどなった車いすの男だった。
でこぼこの道路を不安そうに移動している男はまるで誰かを探しているかのようだ・・・。
角を最後まで曲がり切れず、少し車いすがゆれた。
その姿に迷子の男の子を見つけた母親のようにいてもたってもいられず走った。
(え、どうしたの、私・・・?)
「あ、あなたは・・・。」
車いすをささえる為に近づくと、男は驚くよりも私の姿に安心したような顔になった。
見つめあったその時、私以外の誰かの声が言葉ではなく心で伝えた。
『また会えたね』
しゃがみながら、男にほほ笑んだ。
夕焼けが以前の二人の影を映し出した。
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