ゴリラ!ゴリラ!ゴリラ!

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 吉川先生に続いて動物園内を練り歩く。今はニシローランドゴリラの展示施設から大きく離れたキリンの展示施設前を通過しているところだ。  一体他のゴリラはどこに居るのだろう? 「あの、本当にこっちでいいんですか? 普通、同じ種類の動物は隣のケージとかに居ると思うんですけど」 「心配しなくてもじき見つかりますよ」  訝しむ私をよそに、「ほら、噂をすれば」と吉川先生はキリンの展示施設の前を示した。  しかし、そこに居たのはどう見てもゴリラなんかではない……草臥れたスーツ姿の中年男性だった。なぜか平日の真昼間からキリンをぼーっと眺めるその男性をはっきりと指差し、「あれはゴリラですね」と吉川先生は言った。 「え? 先生、何を?」 「ご存じないですか? ゴリラという生物は非常に知能が高く、繊細で、その代償としてストレス耐性が低いことで知られています。つまりあのどう見てもストレスでおかしくなっている男性はゴリラですね」  流れるように吉川先生は説明する。前半の意味は分かる。けど私が気になっているのはその部分じゃない。 「いやいや! ストレス云々の前にあの人は人間じゃないですか! ゴリラじゃないですよ!」 「ご存じないですか? ゴリラと人間のDNAは約97~98%程度一致しています。であるからして、彼は九分九厘ゴリラですね」  そう、なのか? 良く分からない。分からないけど、なんとなくそうなのかなって気がしてきた。 「ちなみに学名はゴリラ=ゴリラ=シャチクです」 「可哀想っ!」  私の叫びを無視し、吉川先生は次のゴリラを目指して歩き始めた。
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