9人が本棚に入れています
本棚に追加
「痛ててっ!」
聞こえてきたのは吉川先生ではなくお兄さんの方の声だった。おそるおそる指の隙間から覗き見ると、吉川先生が片手でお兄さんの手首をがっしりと捕まえている。
「ご存じですか? ゴリラの握力は約500㎏。加えて、」
吉川先生が手を離すとお兄さんは手首を押さえてうずくまった。先生は間髪入れずに両拳を握り、地面にガンと突き付けて4足歩行のような体勢になる。
「これがゴリラのナックルウォーキング」
先生は呟くと同時に4足でぐるぐるとお兄さんの周りを駆け回り始めた。残像が見えるほどのスピード。お兄さんも私も、そして係員まで、その場にいる全員があっけに取られてぼけっと佇んでいた。
突然、先生は両前足、否、拳で急ブレーキをかけた。そのまま方向を変え、まっすぐにお兄さんに向けて突進する。
「そしてこれが……正義のゴリラパンチだ!」
吉川先生の絶叫と同時にお兄さんは後方に数メートル吹っ飛んだ。
「き、救急車!」
係員さんの言葉に、私は慌ててケータイを取り出し119番通報をした。
最初のコメントを投稿しよう!