どうして死んではいけませんか?

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俺は、一本の煙草を呪った。 急に吸いたくなって、真夜中のビルの屋上に来た。 すると、一人の若い女が、今まさに、屋上の手すりを越えて、飛び降りようとしていたのだ。 厄介な現場に来てしまったと思った。 ここは、地上13階。 落ちたら、まずは助からない。 俺は、動揺しながら、その女に、震える声を掛けた。 「ちょ、ちょっと、あんた……死ぬには、まだ若いって!」 女が振り向いた。 そして言った。 「死にたいのに、年は関係ないです」 冷静な声だった。 俺は、もっと、焦った。 「死んだら、親や、兄妹や、友達が悲しむぞ!」 「親は、二人とも自殺しましたし、兄妹はいません。友達も、みんな離れていきました」 「で、でも、せっかく親が腹を痛めて産んだ命だ。無駄にするな!」 「母は、ずっと、私のことを、産みたくなかったと言っていました」 「え、えーっと、あれだ、あれ……」 俺は、説得する言葉がなくなった。 しかし、どうにか、ひねり出した。 「人間は、生きてるだけで、人を救っていることもあるんだ。早まるんじゃない。きっと、これからいいことがある」 女は、俺の顔をじっと見た。 「私は、あなたを救ってる?」 「ああ、そうだ」 俺は、答えた。 「あんたが、ここで死ななければ、俺は、人の命を一つ救えたことになる。 それは、きっと、俺がこれから一生、生きても、出来ないかもしれないことだ。あんたが、俺を救うことと同じなんだ」 女は、じっと俺の目を見つめた。 「私が、あなたを救える?」 「ああ、そうだ。俺はあんたが誰かも知らないが、死んでほしくない。これは、心の底から思う。死なないでくれ」 俺は、心からの本音を話していた。 女が、かすかに、微笑んだ。 そして言った。 「分かりました。今日は死ぬのを止めます。でも、また、死にたくなっちゃうかもしれないけど……」 「そん時は、また、俺と会おう」 俺は、思わず、言っていた。 すると、女は、一筋の涙を流した。 そして、言った。 「ありがとう……」 END 0cdfd9b0-1cad-41a1-b468-c24ac70a54a6
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