身体が違っても愛してくれますか?

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 腕の中にある温もりが時間が経つにつれて冷たくなっていく。 『くぅ……くぅ……!』  少女は必死になって腕に抱いた小さな命の名前を呼ぶが、閉じられた瞼の奥にある黒曜石の瞳は二度と見ることが出来なかった。 「――ん」  朝のアラームが鳴り響く部屋で、颯希(サツキ)はゆっくりと起き上がる。アラームの元凶であるスマートフォンを手に取りそれを止め、一つ欠伸をした。 「くぅ、か……」  どうしてあんな夢を、と思いながら颯希は自分の両腕を見つめる。  この腕に抱いた小さい命が消えていく瞬間は昨日の事のように思い出すことが出来る。 「くぅ……」  颯希は自分の両腕でギュッと自分の身体を抱き締める。 (もう一度、くぅをこの腕で抱き締めたい)  あの時の悲しみが甦ってきて颯希は涙が溢れそうになる。  泣いちゃダメだと自分に言い聞かせて、颯希はベッドから降りて身支度を始める。  伊原颯希はどこにでもいるごく普通のOLだ。  ショートヘアの黒髪を櫛でとかし、同じ色の瞳にコンタクトを入れる。軽く化粧で顔を整え、無地の藍色のマーメイドワンピースに腕を通し、ストッキングを履けば一般OLの完成だ。 「さぁて、行きますか」  気合を入れて颯希は玄関を飛び出した。  会社に着くと周囲がザワついていた。隣の席の同僚に声をかけると中途社員が来るとのこと。 「その人、外資系に勤めていたみたいで超がつくほどのイケメンなんだって」 「へぇ、そう、なんだ……」  だから女性社員が色めき立っているのか、と納得しつつ颯希はノートパソコンの電源を入れた。  しばらくすると、きゃあっと歓声が沸いた。噂の中途採用の社員が部屋に入ってきたのだろう。  颯希はメールをチェックしつつ、入ってきた男性社員を盗み見る。  彼を見て颯希の心臓が震えた。  ゴールデンブラウンのショートヘア、前を歩く部長の背中を見つめる彼の瞳は黒曜石のような色をしていた。  在り来りの人なのに、どうしてこんなに胸が締め付けられるのだろう、と颯希は視線をモニターに落とす。 (会ったこと……なかった、はずなんだけど)  過去に出会った男性を思い巡らしても彼のような爽やかな人は居なかったはずだ。  胸の動悸がおさまらないまま、始業のベルが鳴る。しばらくすると部長が咳払いをした。 「村岡空夜(ムラオカクウヤ)です。よろしくお願いします」
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