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何でも。
こいついわく、あたし達が知らないうちに新しい法律が可決された、ということ。
その法律とは、堕落した人間は徹底的に鍛え直さなければいけない、それができない人間は処分してもかまわない、というもの。
此処にいるのは、犯罪を繰り返したり、極端に怠惰な生活を送ったり、人に迷惑をかけることを厭わなかったりといった堕落した人間であること。
この中でたった一人だけ、見込みがある人間を生かしてやろう、ということ。
その一人を決めるため、これからデスゲームをやってもらおう、ということ。
「皆さんが元々持っていた荷物は我々が預かっていますが、優勝すれば全てお返しするのでご安心ください!平等を期するため、ポケットに入っていた携帯や財布、護身用の武器などもろもろも含めて全て預からせていただいておりますのでね」
彼は空を仰いで説明する。
「この森は、通称“毒木の森”と言います。皮も根も葉もすべて毒が含まれているので、触ったくらいなら大丈夫ですが食べたりしたら人間は確実に死ぬのです。この森には、この木以外の植物はありません。ですが、我々が作った“秘密基地”が、ここから徒歩圏内のどこかに隠されています。今から皆さんを、そこにご案内します。皆さんがするべきことはただ一つ。我々のうちの一人が今からそちらに向けて走りますので、それまで彼を追いかけ続けること。以上です」
「え……」
誰もが困惑したに違いない。
デスゲームなんていうから、てっきり此処にいるメンバーで殺し合いでもさせられるのかと思ったのに。まあ、此処には巨漢の男もいるし、小さな女の子もいる。能力的に考えたら、武器のあるなし関係なく不平等だとは思うが――。
――どういうこと?ようは、あんたらの一人が秘密基地に到着するまで、ひたすりゃ追いかければいいってだけ?
そういえばこんな展開、どこかの漫画で見たことがあったような。ちらりと頭の隅に引っ掛かったが、何の漫画だったか思い出すことはできなかった。
もしもそうなら、あたしは少しだけ有利なのかもしれない。
高校に入ってからは煙草と酒と男遊びばっかりしていたが、中学まではきちんと部活もやっていたしバレーボール部にも所属していたのだ。運動神経ならばそれなりに自信もある。ただ追いかければいいだけなら、他の人と争う必要もあるまい。持久走の成績も悪くないし、できない勝負ではないだろう。
「し、質問があるんだけど!」
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