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腹立たしいが、尋ねるべきことは尋ねておくべきだ。あたしはハイ、と手を挙げた。
「ただ秘密基地とやらまで、あんたらの一人を追いかければいいだけ?何でそんなルールにしたの?それに、場合によっては複数の人数が脱落しないで残ると思うんだけど……そうなったらそいつらで殺し合いでもすんの?」
「おお、いい質問ですね。高津川高校二年生の、前橋深紅さん」
「……っ」
こいつ、本当に政府の人間なのかも。あたしは冷や汗をかいた。何で名前を知っているのだろう。制服に、名札なんてつけていないのに。
堕落した人間を選んだ、と言った。ちょっと煙草や恐喝をしていただけで堕落したなんて言われる筋合いはないが――本当に、あたしが誰だかわかっていて、精査したうえで選んだとでもいうのか。
「一人だけ生かすと言いましたが、それはあくまで私の見込みでは一人しか生き残ることができないと思ったからですね。でも、嬉しい予想外が起きて二人以上生き残って下さっても大歓迎!その場合は、脱落しなかった方々全員が生きて帰ることができます」
「ほ、ほんと……!?」
「ええ。こんなルールにしたのは、我々が求める人材が“常に目標を追いかけられる、意思の強き人間”だからです。皆さんがそれを証明してくれるのであれば、極端な話此処にいる全員に生きて帰るチャンスがあるということです!」
周囲からわかりやすく安堵の声が上がった。万が一複数で生き残っても、殺し合いなどしなくていい。それがどれほど安心できる材料であったか。中には、知り合い同士と思われる人もいたから尚更に。
ざっと集められた人数を数えると、二十人くらいだろうか。
白装束たちが、あたし達の手足のロープを切っていく。まだ体が重たいのは薬のせいなのかもしれない。
「まだ皆さん、薬が完全に抜けきってないでしょうから。十分後の開始となります。彼が逃げ始めたらスタートです。彼はフルマラソンの現役選手ですが、今回は皆さんに合わせてゆっくり走るので安心してくださいね」
白装束の一人が、自分ですよ、というように手を挙げる。腰に下げたポーチから水を取り出して飲みつつ、準備運動を始めた。それを横目に見ながら、他の男たちは傍に止めてあったトラックに乗り込んでいく。
「我々は別の場所で待機し、皆さんを見守っていますよ!それでは!」
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