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ゼパルはひたすら追いかけられた。
「えーっと……はいはい、次に行きますよ次。今から三百年ほど前のことですねえ」
やる気のない中年男の声が、教室に響き渡る。この教師の声は他の教師より輪をかけて眠たい。あたしはふぁぁ、と派手な欠伸をした。
どうせ、あいつは生徒の様子なんて見てないのだ。今更退屈そうな素振りをしたところで叱られないことくらいわかっている。
「西暦2025年の7月。アメリカに、巨大な宇宙船が降り立ちました。みなさんもご存知、宇宙連邦最高議会の皆さんが乗った船です。そう、異星人はいる、とはっきり地球人に認知された瞬間だったわけです。彼らは、地球人に交渉を持ちかけてきました。その交渉はどんなものでしたか?……はい、柏木くん」
「はい。……異星人たちの技術を提供するかわりに、地球を異星人たちの観光名所として開放してほしい、ということですね」
「その通り。異星人たちは、地球の美しい資源や独特な文化にとても興味を持っていたんですね。それで、まあギブアンドテイクということで、異星人たちが自由に観光できるように協力してほしいと言ってきたわけです。その代わり、地球にはない様々な資源や技術を提供してくれると約束してくれました。その代表例が……」
先生が指す人間は決まっている。打てば響く生徒以外に、彼は興味がないのだ。
今指された柏木なんぞその最たるところである。彼はこのクラスどころか学年でもトップ。この高校でも一番の秀才と名高い生徒だ。あたしみたいな、毎日学校に寝るためと遊ぶために来てるような女子高校生とはまるで違う。ようは、先生のお気に入り、というやつなのである。
柏木の答えに満足した先生は、再び退屈な説明を続ける。つらつら、つらつら。もう少し生徒を寝かせない工夫をしてほしいものだが。
「宇宙連邦最高議会の議長であるベティ・ロックハートは言いました。“我々は友として、ともに宇宙で発展することを期待している。ただし、我々は宇宙全体の法律に則って動いている。それを地球人にも徹底的に周知してほしい。お互いのルールが正しく守られる限り、我々は良き友でいられることだろう”と。ベティ・ロックハートの名前と話の内容はテストにもよく出ますので、皆さん覚えているように」
「はーい」
「うぇー」
生徒達のやる気のある返事、やる気のない返事が入り交じる。
なんだかなぁ、と思いつつあたしは教科書の写真を見た。青いふわふわとした髪の、小学生男子にしか見えない見た目の宇宙人の写真が載っている。こいつがベティとかいう人らしい。
――異星人って言うから、もっと怪物みたいな見た目かと思ってたのに。
ギリギリ、あたしが意識を保っていられたのはそこまでだった。
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